心に刺さって染みた「バウムクーヘン」のシーン
だが、個人的に最もハッとしてグッときたのは、放送もされた第1話で慶太が会社のみんなに振る舞い、富彦からの説教中に手渡して投げ返されたバウムクーヘンである。あそこだけの登場かと思っていたが、物語の重要なカギとなっていたのだ。本来の第4話で念願が叶ってオモチャの企画に携わるようになった慶太が復刻させる20年前の自社キャラクター“Bamu-ku(バームークー)”はクマという設定だが、その名前からしてバウムクーヘンがモチーフなはず。
さらに慶太と玲子の仲を危うくし、より愛と絆を強くする存在にもなっていて、玲子と共に未来を築く自信が揺らぎ始める慶太に対して富彦は手に取ったバウムクーヘンを例えに諭して励ます。慶太にバウムクーヘンを投げつけていた富彦だからこそ、このシーンは心に刺さって染みてたまらなくなった。
脚本を手がけた大島里美はシナリオブックのあとがきに「ふたりで歩き始めたばかりの玲子さんと慶太、そして、ほころびだらけの登場人物たちには、まだまだいろんな出来事が起こりそうです」と寄せている。その言葉通り、最後の最後でも慶太と玲子はなにやら波乱を巻き起こしそうでクスリとしてしまう。
「ああ、良き」と思えるドラマ、映画、小説に出会うと、優れた物語の定義とはなんだろうと考えることがある。大団円を迎えてスパッと気持ちよく終わるもの、はっきりとした結末を提示せずに終わって後を引きずらせるもの……いろいろとあるが、終わっても劇中の人物たちの営みを心や頭のなかで続けていきたくなるものもそのうちのひとつに入れていいはずだ。『おカネの切れ目が恋のはじまり』は、まさにそのタイプだったとシナリオブックを読んで痛感した。
読み終えてから、放送日だった毎週火曜を迎えると、第9話、第10話、第11話とエピソードを勝手に更新している自分がいる。