新型コロナウイルスの危機はグローバル資本主義のあり方に急激なブレーキをかけ、疑問符を投げかけた。今後、アンチグローバリズムの流れで地域主義が加速すると分析する思想家の内田樹が、新著『コモンの再生』にこめた日本再建のビジョンを語る。(全2回目の1回目。後編を読む)
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――ポストコロナ時代における1つの大きな見立てとして、今後、「地域主義」が加速していくというのはどういうことでしょうか。
内田 パンデミックによってヒトとモノの流れが停滞して、グローバル資本主義が事実上、機能不全になりました。クロスボーダーに人と商品と資本と情報が超高速で移動することを前提に制度設計されてるのがグローバル資本主義です。
電磁パルスはこれからも国境を越えて移動するでしょうけれど、生身の人間は身動きがならない。そして、生身の人間が移動しないとどうにもならないことが世の中には思いがけなくたくさんあった。これから先も間欠的に新型ウイルスが発生して、その都度パンデミックが起きるとすると、早晩グローバル資本主義というシステムは破綻するでしょう。
今回わかったことの1つは、「本当に必要なもの」が金で買えないことがあるということです。ビジネスマンたちは「必要なものは、必要な時に、必要なだけ市場で調達すればいい」という「在庫ゼロ」を理想とするジャスト・イン・タイム生産システムにこれまでなじんできました。とくにアメリカではそれが徹底していた。ですから、感染拡大の初期には、防護服やマスクまで戦略的備蓄がほとんどなかった。その後「主要な医療器具と医薬品に関しては、輸入に依存せず、国産にする」と方針を切り替えました。
事情はヨーロッパも同じです。イタリアは医療崩壊したときにドイツとフランスに支援を求めましたが、両国とも医療品の輸出を禁止した。危機的事態になると友邦さえ門戸を閉ざすということをそのとき世界の人々は学んだ。ですから、医療品やエネルギーや食料といった社会にとって必要不可欠なものは、たとえ国際価格より割高でも自国内で調達できる仕組みにどこの国も切り替え始めてゆくと思います。