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「安達さんと出逢っていなければ、いまだにウロウロさ迷っていた」 安達祐実と、カメラマンの夫・桑島智輝の“関係”

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「これはオレの写真であり表現なんだ!」とも言いたい

 結婚後も、桑島さんは安達さんを撮り続けた。

 それはそうだ。桑島さんにとって彼女は最愛の妻であり、最高の被写体であるのだから。

「ただ、日々撮っているうちに、写真家として当然の欲望も浮かび上がってきました。

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©️山元茂樹・文藝春秋

 結婚前に撮っていた『私生活』は、あくまでも安達祐実の写真集という受け止められ方をされた。基本的には、被写体への関心ありきで手に取ってもらっていたわけです。

 それはそれでうれしいのだけど、僕としててはもうすこし、撮り手側に写真を寄せたい気持ちもあった。安達祐実が写っているというだけじゃなくて、『これはオレの写真であり表現なんだ!』とも言いたい……。

 そう心のどこかで思いながら、ふたりの生活の瞬間、瞬間にカメラを向けていました。これまでに撮った枚数なんて、もうとっくに数え切れない。折りに触れてまとめてきたプライベートアルバムは数百冊くらいになっていて、家の一室にキチンと整理しています」

「我旅我行」より

写真集『我我』--被写体と撮り手がぶつかり合ったり手を取り合ったり

 そのうちに、撮りためた写真を一冊にまとめようとの話が持ち上がった。2019年に写真集『我我』として、それはかたちを成した。

「この写真集でようやく、撮り手と被写体の存在感をイーブンにできたかなという手応えを得られました。本の宣伝活動をするうえではどうしても、『安達祐実』というネームバリューに頼りきりになってしまうのですが」

「我旅我行」より

『我我』というタイトルは象徴的だ。「我=撮り手」と「我=被写体」が、ぶつかり合ったり手を取り合ったりしつつ並び立っている。夫婦であり、協働創作者でもある安達さん・桑島さんの様子をよく表している。

 そして今般、『我我』の続編ともいうべき写真集がまとまった。旅をテーマにした『我旅我行』。

「2014~18年のあいだに、僕ら夫婦は4度の撮影旅行に出かけました。行き先はフランス、ポーランドとドイツ、沖縄、スペイン。そのときに撮った写真と、今年4~8月の日常写真を、往還するような構成にして一冊を編みました」

 今年の春夏といえばそう、コロナ禍で外出自粛が強く唱えられていた時期。旅先の「外」と自粛中の「内」、対照的な状況を交互に並べることで、それぞれの写真群がいっそう際立ってくる。

 周囲の環境が画角にたっぷり取り込まれているからか、人物を撮ったものというよりも、いい「風景写真」を見たという印象が強く残る。

©️山元茂樹・文藝春秋

「そうだとしたらうれしいです。写真家としての僕は、妻を通して世界を見ているようなところがあるから。