夫婦で撮っているというと、『ああ、愛情物語ってわけね』と思われがちだけど、そういうベタベタと甘い部分だけでやっているわけじゃないんです。妻を、安達祐実というモチーフを用いながら、『いい写真ってなんだろう?』『写真という表現で何ができるだろう?』といったことを追求しているつもり。夫婦の愛とかじゃなくて、これは写真なんです」
「これまでの写真集で、一番いいんじゃない?」
とはいえ同時に、桑島さんにとっては最も身近な「安達祐実」という存在が、最高のモチーフにして最良の被写体であることは、紛れもない事実。
「そうですね、本当にありがたいことです。写真家にとって、いいモチーフを見つけることは何より大切。これだ! と思えるモチーフを撮り続けることで、気づきがあり理解が深まり、考えが発展して先に進める。写真家はモチーフを通してしか、『自分には世界がこう見えています』と示すことができないし。
僕も安達さんと出逢っていなければ、いまだにウロウロさ迷って、自分の写真を深めることができていなかったと思います」
不可欠な被写体である安達祐実さんは、完成した『我旅我行』を見て、
「これまでで一番いいんじゃない?」
と言ってくれたのだそう。桑島さんとしても自信作であり、
「ぜひ海外へ持って行って、『安達祐実が写ってるんだね』というフィルターを通さない人の反応も見てみたいですね」
写真家として、ストレートに自分の写真が持つ力を測ってみたいといったところか。
渾身の写真集が完成し刊行されたばかりのいまも、桑島さんは変わらず、妻である安達祐実さんを撮り続けている。それにしても夫婦の日常の中の、どんな瞬間にシャッターを切っているのか不思議だ。
「本当に何気ないとき、何かの拍子に『あっ』と思ったら撮るだけです。
今日はもう午前中に撮りましたね。幼稚園に行く息子を送り出して、ふたりとも仕事までにちょっと時間があったから、そのままカフェに寄ると、店内に挿す光が安達さんを照らす感じがとてもよくって、その瞬間に何も考えずシャッターを押した。
目の前にある『いいもの』を、そのつど掬い上げていく感じですかね。
カメラを持ち歩いて、写真を撮るという行為があるから、ふたりのあいだに流れるいい時間や美しい瞬間に気づける面もある。夫婦であるかぎり、僕が彼女を撮らなくなるということはあり得ないです」