兄に食事をおごってもらったあと、「楽屋来るか」と言われてついていくと、たまたま役者のひとりが急病だというので、梅沢が代役を任される。セリフは一言、「すいませんけれども、ちょっとそこへ座らせていただけませんか」というものだったが、すっかり福島弁が身についていた彼は、「すまねけんども、そこ座らせてくなんしょ」と言ってしまう。
ところがこれが受けた。この経験から、《体の中に伏せていた役者の血が、バンっ! て破裂したみたいに、体中に一気に回》り、中学の卒業式も出ないまま、役者になる(※3)。
人気漫画家が梅沢に与えたアドバイスとは?
梅沢が21歳のとき、兄が座長を引き継ぐ。初代座長の父は兄に対し「きっとおまえを助けてくれるから、富美男だけは手離すな」と言っていたという。しかし梅沢もすぐに売れたわけではない。20代の半ばには一度、役者をやめようと思ったという。
このとき、母親を通じて知り合って可愛がってくれていたマンガ家の石ノ森(当時・石森)章太郎に、「壁を感じる」と相談に行った。すると、《壁っていうのは売れた人の言うせりふだ。おれが新作描いても、『仮面ライダー』『サイボーグ009』と同じって言われたら壁。スターになって、どんな芝居しても、同じ芝居してるねって言われたら壁だよ。おまえは必ず売れるから、頑張ってやってみろ》と一喝されたという(※4)。この一言で梅沢は思いとどまった。
梅沢が女形を演じるきっかけをつくってくれたのも、石ノ森だった。先の相談から半年後、石ノ森から当時ちあきなおみの歌っていた「矢切の渡し」を踊ってほしいとリクエストされる。兄に伝えると、「あの曲は男女2人で踊る相舞踊だから、おまえが女形をやれ」と言われた。女形になるのはいやだったのだが、恩人の話を断るわけにもいかない。
彼のプレイボーイぶりを知る兄には「女のことはよく知っているだろう」とからかわれながら、母に踊りを教えてもらい、メイクは自分でして、この空間のなかで自分が一番いい女だと思って演じるしかないと腹をくくった(※5)。