世界中の注目を集めるアメリカ大統領選挙とともに、日韓対立にも大きく影響を及ぼしかねないもう一つの選挙が佳境を迎えている。世界貿易機関(WTO)の事務局長選だ。
最終候補に残ったのは、韓国産業通商資源省の兪明希(ユ・ミョンヒ)候補と、ナイジェリアの元財務相・オコンジョイウェアラ候補。
WTO事務局長は個別の紛争に関与しないとされるが、元徴用工問題から端を発した日韓対立で、兪氏は昨年7月に日本が発動した韓国への半導体材料の輸出規制強化措置に対し、元徴用工問題に絡んだ「政治的な動機」で行われたと反発して提訴に関わった。日本政府には「紛争が公正に処理されるのか、不安が生じる」(外務省幹部)との懸念が強く、新たな“火種”が生まれかねない状況と報じられている。
佳境を迎えた事務局長選の行方はどうなるのか。産経新聞外信部の時吉達也氏が緊急寄稿した。
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早く「負け」を認めたい――。世界情勢の今後を左右する選挙戦の最終盤に、片方の陣営からそんな悲鳴が漏れている。法廷闘争に固執するトランプ米大統領の話では、もちろんない。米中対立に巻き込まれ機能停止に陥った、世界貿易機関(WTO)の事務局長選だ。
今月9日、後任者を選出する予定だった一般理事会は新型コロナの影響を名目に延期されたが、大勢はすでに判明し、ナイジェリア出身候補の当選が確実視されている。しかし、最終決戦で敗れたはずの韓国は同盟国のアメリカから「お達し」を受け、手にした白旗を上げるに上げられない状況にある。
慣例をシカトした“KY宣言”
米国から「中国寄り」だと繰り返し批判され続けたブラジル出身の事務局長が職責を放棄し、任期途中での辞任を突然表明してから5カ月。後任候補として、ナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相と、韓国の兪明希(ユ・ミョンヒ)通商交渉本部長の2氏が最終選考に残った。
「加盟国164カ国中、96~104カ国前後がナイジェリア候補を支持」。10月28日、各国の支持動向を確認するWTO非公式会合を経て明らかになったのは、韓国側に引導を渡すのに相応しい内容だった。事務局長選では合意形成を重視するため、投票ではなく聞き取りを通じて候補を絞り込み、支持が集まらなかった候補は自ら撤退する慣例となっていた。
それにも関わらず、韓国大統領府は翌日、「今回の結果が結論ではなく、まだ手続きが残っている」と選挙戦を続ける意向を示した。ルール無視の“KYぶり”を見せつけたのか。そうではない。そもそも、韓国側はハナから、勝利を半ば諦めてさえいたのだ。