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「負けました」の言えない韓国 米大統領選の陰で失われた“対日カード”とは

2020/11/09
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バランスもエチケットも無視した選挙攻勢

「すでに『目的』は達した」。2氏が最終選考に残ることが決まった10月上旬。文在寅大統領が政府として「総力を傾け支援」するよう指示し、韓国メディアが「当選可能性は十分」と鼻息荒く報じるのを尻目に、韓国外交筋は早くも、自国候補が落選し「終戦」を迎えるとの見方を明かしていた。

 韓国人候補の当選を阻む最大の理由は、国際機関の人事で重視される地域間のバランスだった。事務局長は2000年代以降、オセアニア(ニュージーランド)→アジア(タイ)→欧州(フランス)→南米(ブラジル)と持ち回りの人事が行われてきた。今回は選挙戦前から、過去に事務局長を輩出していないアフリカ出身者を就任させるというコンセンサスが加盟国の間で形成されていたのだ。

 韓国の選挙戦が勝利を最大の目的としていなかったことは、国際機関において「エチケットとしてのぞましくない」(韓国紙毎日経済)はずの露骨な選挙活動からも読み取れる。文大統領は選挙戦を通じ、ロシアやドイツなど各国首脳に直接の支持要請を行い、逐一報道発表した。各国への働きかけは当然重要だとしても、それを大々的に公表することは加盟国の反感を呼び、逆効果となる可能性があった。

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 それを承知の上で、韓国側は確信犯的にド派手な選挙戦を展開した。今回とは逆に「アジアから後任を選出する」というコンセンサスがあった2006年の国連総長選で、韓国は当時の外交通商相、潘基文氏を擁立。「本命候補」として戦い、勝ち方を学んでいたにもかかわらず、あえて別の道を選んだのだ。

目論んだ“二枚舌”のスキャンダル隠し

 では、勝利以外のところにあった韓国の「目的」とはなんだったのか。それは、一方では国内向けに文政権の仕事ぶりをアピールすることであり、他方では今後の国際機関選挙に向けた地ならしを行うことにあった。

兪明希(ユ・ミョンヒ)候補が撤退できない陰には、政権のスキャンダル隠しもあった ©AFLO

「環境省ブラックリスト疑惑」。事務局長選での健闘により、文在寅政権のダメージが軽減されたスキャンダルだ。朴槿恵前政権で任命された環境省傘下機関の役員に圧力をかけて追い出しを図ったとして、職権乱用などの罪で前任の環境相が起訴され、公判が続いている。政府に批判的な芸術家のリストを作り、嫌がらせを繰り返した朴槿恵政権を彷彿とさせる内容で、韓国で「他人がやれば不倫、自分がやればロマンス」とも表現される二枚舌っぷりが野党支持者の怒りを買った。

 これに対し、今回の選挙戦を通じて大きく報じられたのは、「『朴槿恵軍団』の一味」だったはずの兪明希候補に対し、文大統領が抜擢人事を行ったというエピソードだ。