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鈴木家最後の晩餐

 家族の誰もが私の一挙手一投足に対して、まるで私が大きな子どもであるかのように接してくれていました。特に新しく覚えた日本語を話すと、とりわけパパとママが喜んでくれました。

 私は続けてパパにこういいました。

「パパ、元気、元気になるよ」

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 パパはうれしそうに、にこにこしながらうなずきました。

 きょうは帰りが遅くなってしまったので肉まんはできません。それと晩ご飯の支度もできていません。皆、お腹がすいていることでしょう。私は、すぐにできて、おいしい料理は何だろう?そう考えながら、身体が暖まったのでコタツから身を起こし「晩ご飯の支度します」といいました。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 するとママは、こう答えました。

「ママがもう準備したわ。パパがね、カレーが食べたいんですって」

 ママは病院でパパに付き添って、とても疲れただろうに、私が帰るのが遅かったために食事の支度までさせてしまった。私はとても申し訳なく思い、何度も言いました。

「ごめんね、ママ。ごめん」

「大丈夫ですよ。それよりママはね、アコ(秋子の愛称。後の詩織)にお願いごとがあるの」

 そういうと山のような洗濯物を出してきて、

「ママは新しい洗濯機の使い方がわからないのよ。アコ、教えてね。アコは先生ですよ。えらいわ」

 私は、それを聞いていてとてもうれしくなり、矢もたてもたまらず洗濯物を抱えてこうママに言いました。

「今、洗います」

 するとママは、その洗濯物を引き戻してこう言いました。

「アコ先生がやり方だけ教えてくれたらママが明日洗うわ」

 でも私は譲らずに「今洗ってあげる」といい続けました。そんな私にママは言いました。

「夜はね、お洗濯はしないのよ。干せないでしょう。今、外は真っ暗で、寒いし。明日の朝にしましょう。パパもお腹がすいたでしょう」

※写真はイメージ ©️iStock.com

 ママはパパが痩せて小さくなるふりをしました。それを見て家族みんなで笑いました。私は明日の朝早く洗濯することに決めました。ママは言いました。

「ママの作ったカレー○○したよ」

 ○○の箇所の日本語がまだ未熟な私には聞き取れません。

 ママは、キッチンに入りナベをもってきて私に見せました。実はママはカレーにお湯をいれすぎ、不味くなってしまったのではと心配していたのです。私は鼻でクンクンと匂いを嗅いでいいました。

「おいしそうですよ。大丈夫、大丈夫」

 私が料理を誉めるとママも嬉しそうににっこりしました。

「それなら良かった。じゃあ食べましょうか」

 私はカレー用の皿をもってきて、ご飯とカレーを盛り付けました。そしてこたつを囲み、たまたま来ていた茂さんの弟さんも一緒になって家族5人テレビを見ながらおしゃべりをして夕食をとったのです。

 この日、皆で食べた夕食が「鈴木家最後の晩餐」になると、そのときは夢にも思いませんでした。〉