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不吉な流れ星

 外にでると満天の星空。私は腰を伸ばして顔を上げて星空を見ました。星はダイヤモンドのように、静かで奥深い黒の緞子のような夜空にキラキラとまたたいていました。深呼吸をすると、ひんやりとして気持ちがよくなりました。幼い頃から私は星を見るのが好きでした。小さい頃は星を手にとって遊ぶことを空想したものです。星はいつも空の上で、いたずらっぽくまたたいています。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 そうやって星をみているうちに、居間のコタツでの重苦しい空気などだんだん忘れていきました。

 私は、私たちの家に戻るとスキップしながら2階にあがっていき、パジャマをとって、母屋とは離れた風呂場へ行きました。そして湯船に入る前に、風呂場のドアのところに茂さんの汚れた作業着を持ってきて、凍結防止のため、洗濯機と蛇口との間の水道管にかけました。

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 マイナス20度、30度にもなる寒冷地で育った私は、幼い頃から両親や祖父母が初冬にしていたこの方法が寒さに有効であることを見て知っていたのです。冬の食用としていた野菜、小菜園で育てていた遅い時期のほうれん草、香菜。太陽が西へ傾いていくとき、これら野菜のうえに、藁で編んだ、すだれやズック布を被せます。夜間になると温度が下がって霜がおります。

 朝起きてみるとあたりの地面は霜がキラキラと輝いています。堀の水面には薄い氷が張っています。しかし、野菜に被せた、すだれやズックを開けてみましょう。ほうれん草、香菜は、前の日とかわらず緑色に輝き、少しも凍っていません。太陽の光を浴びると曲げていた腰をゆっくりと伸ばす人間のように、野菜たちは背伸びをしはじめます。こんなふうに野菜を育てていたので初冬でも市場に買い物に行く必要はなく、新鮮な葉物類の野菜を食べることができました。

 しかし、この方法はあくまでも晩秋、初冬、早春のときしか使えません。さすがにマイナス30度近い厳冬ともなれば無理な方法です。しかし、日本の千葉あたりの冬では十分に使える私の故郷の生活の知恵です。それを日本でも蛇口と水道管の凍結防止に使ったのです。朝、洗濯するときも困りません。

 私は風呂からあがると庭を横切って自分の部屋に戻ります。私はまた夜空をみあげました。すると、その時、突然、一筋の光が暗い夜空を駆け抜けていきました。

※写真はイメージ ©️iStock.com

「あー流れ星!」

 私は嬉しくて、ひとり叫んでいました。

中国人「毒婦」の告白

田村 建雄

文藝春秋

2011年4月20日 発売