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「G20で木のストローを使いたい」“住宅メーカー”が木製ストロー開発で脚光を浴びた理由とは

『木のストロー』より #2

2020/11/17
note

G20に「木のストロー」を

 これまでさんざん反対されてきた木のストローが、G20のような大きな舞台で使われる……。

 それは私にとって、記者発表の次にうれしいことだった。それに今回は、会社にとってもすごくいいことではないかと、迷わず思えた。

 役員も、「G20に出せたらすごいよね」と言ってくださった。

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 これを機に、社員の意識も変わるといいな、とも思った。これまで、木のストローがどれだけマスコミに取り上げられても、社員はどこか他人事だった。当時は、私を含め、SDGsという言葉を聞いたこともない社員がほとんど。海洋プラスチックごみ問題も、遠い世界の話だった。

 ちょうどその頃、半年に一度の社内の表彰式があった。私も呼んでいただき、何で表彰されるかもわからないまま、当日、会場のホテルまで行った。

 会場では、いつものように、社長が表彰する社員の名前を呼び、表彰状と目録を渡していった。私は最後に呼ばれた。木のストローでの受賞だった。賞状を受け取り、次に目録、というところで、裏から巨大な木のストローが出てきた。

©アキュラホーム

 え!?

 一瞬、あっけにとられた。

 長さは1メートルを超えるだろうか。紙でできた筒に、木目のシートを、本物の木のストローのように巻きつけてノリづけし、両端もきちんと切りそろえてあった。さらに特別賞と書かれてリボンまで巻かれてあった。表彰式を担当した社員のみなさんが手作りしてくれたものだった。

 木のストローの開発を始めてから、みんなに負担ばかりかけている、ずっとそう思っていた。社内で誰も、いい思いをしている人はいないし、それどころか、住宅とは関係のないストローのことで、仕事量は増える一方だ。それなのに、忙しい中、こんなお祝いをつくってくれた……。

 そのことに、少し救われた気がした。

 帰りは「タクシーで帰ったら?」「車で送ってもらったら?」と言われたが、巨大ストローと一緒に、電車で帰ることにした。乗り換えのターミナル駅までは、帰路が同じ方向のほかの社員に交代で持ってもらい、その後はストローを一人で抱えて帰宅した。

 とてもかさばるが、今でも自宅に飾ってある。

 でも浮かれてばかりはいられなかった。

 相変わらず、問題は次々に起こり、毎日が目まぐるしく過ぎていた。そして、G20に向けて大きな課題もあった。それは、ストローのクオリティをさらに上げる、ということだった。 

木のストロー

アキュラホーム 西口 彩乃

扶桑社

2020年10月16日 発売

「G20で木のストローを使いたい」“住宅メーカー”が木製ストロー開発で脚光を浴びた理由とは

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