「何の実績もない自分たちに、いつも同じように明るく接してくれてありがとうございました」
戦力外通告を受けた直後、そう挨拶をしてくれたのは大本将吾選手。2016年育成ドラフト1位で帝京第五高校(愛媛)からホークスに入団しました。身長186cm、体重103kg(公称・笑)の恵まれた体格。そして、見るものを驚かせる飛距離で未来の大砲候補として期待されていました。
大本選手はプロ入り前から“ギータ”こと柳田悠岐選手の大ファンで、奇しくも同じチームに入ることが出来ました。今も寮の部屋には、入団後にもらった柳田選手のサインが大事に飾ってあります。柳田選手が握ってくれたというゴルフクラブも「もう使えません」と大事に保管しています。ファンでもあり、同じ左のスラッガーとしてもずっと憧れてきた存在です。以前、文春野球コラムで「ミニギータ」と紹介したこともありますが、背格好や豪快なフルスイングからは本家ギータのように成長していく姿を期待せずにはいられませんでした。
しかし、ホークスでの通算成績は2軍公式戦17試合に出場し、24打数4安打0本塁打。入団から4年間、主戦場は3軍でした。3軍戦と2軍非公式戦では10本塁打を放ちましたが、持ち味を存分に発揮できないままホークスのユニフォームを脱ぐことになりました。
「これから伸びる可能性だって十分あるんだから続けたらどうだ?」
今月上旬、大本選手は球団事務所に呼ばれ、来季契約を結ばないことを通達されました。今後の話になると、その場で「野球は引退します」ときっぱり答えました。その潔すぎる二つ返事には球団関係者も驚いた様子だったと言います。
その後、ホークスの戦力外通告を伝える記事では“大本は現役を引退”の文字が躍りました。元々、謙虚で現実的で年齢の割に落ち着いている大本選手。日ごろから自身の置かれた状況を俯瞰していたので、やる気のあるなしではなく、そういう「決断」に至ったのだろうなと私も報道を見て思いました。
すると、まさかの展開が待っていました。“引退表明”を見聞きした多くの知人友人、お世話になった方々から連絡を受け、お叱りを受けたといいます。チームにあいさつ回りをしている際には、川島慶三選手からも声を掛けてもらいました。
「お前はまだ22歳でこれから伸びる可能性だって十分あるんだから続けたらどうだ? 辞めるのなんかいつでも出来るんだから」
育成である自分のことを気にかけてくれる先輩の言葉に「本当に有り難い限りです」と恐縮していました。川島選手がこんなことを言ってくれるのも大本選手に可能性が溢れているからだと思います。じつは、「是非うちに来て欲しい」とラブコールをしてくれる野球チームの方もいるそうです。「トライアウトだけでも受けてみないか?」ともたくさんの人に説得されました。
本人は中途半端な気持ちで野球を続けるつもりはありませんでした。しかし、いろんな人の声を聞いていると、様々な想いが巡りました。一人じゃないことに気付かされました。
「自分がもう一度挑戦することで喜んでくれる人がいるのなら、その人達のために頑張ってみようかな」
そう思うと力が湧いてきました。そして下した決断は……
「トライアウトを受けます! ダメならダメでその時は潔く辞めます」
良く言ったぞ、大ちゃん! ということで、大本将吾、引退撤回します!
そうと決めたらすぐに練習を再開しました。既にトライアウト受験の意思表示をしていた堀内汰門選手と共に筑後で汗を流しています。