「レベチ」に始まり「眼中にもない」で終わる。私が今シーズンのファイターズを振り返るとすればこうなる。どちらのフレーズも中田翔選手の言葉だ。いつだって本音の中田選手の言葉には「仰る通り!」と大きく頷かされるし、クスッと笑うこともある。それはどちらも中田選手の優しさだ。
個人としては満足の数字を残すシーズンとなったが……
2020年は何だかよくわからないままに季節が過ぎていった。前の冬はいつ終わったのか、やっと来た春を楽しめないままにぬるりと突入した夏はいつがピークだったのか、どこからどこまでが秋で、今また冬がやってきているのはあまりにも早過ぎやしないか。変わってしまった生活スタイルにとまどっても、どこに気持ちをぶつけていいのかわからない。
「コロナ禍だから仕方ない」、そんな言葉にも早々に飽きてしまった。だから私たちは日常を探した。変わらないものを探した。
野球はその一つだった。開催時期が変わっても、観戦様式が変わっても、根本は変わらない。
あらゆることが変更されても、ルールが恐ろしく変わるわけでも、チームがそっくり変わるわけでもないのだ。当たり前のことが簡単に当たり前でなくなることを経験した私たちは、その揺るぎなさに安心を感じた。野球ファンで幸せだった。
2月の末、キャンプが終わった頃に、今年13年目の中田選手が言った。あの頃はまだ開幕は予定通りだった。
「今年の打撃の状態は、ここ4、5年で一番いいと思う。ばかみたいに振らなくても打球が勝手に飛んでいく。ものが違うというか、“レベチ”というか」
「レベチ」、「レベルが違う」を略して「レベチ」、いわゆるギャル用語をさらりと使った笑顔の中田選手に調子の良さを感じた。新聞各紙にその三文字のカタカナは大きく踊り、シーズン通して、試合実況でも中田選手が成績を上げるとよく使われるフレーズになった。
3月から6月へと開催が遅れても中田選手は「レベチ」状態を維持した。自己最多のホームラン、自身3度目の打点王獲得と個人としては満足の数字を残すシーズンとなった。そう、個人としては。
チームとしては、2年連続の5位に終わったのだ。北海道のチームになって初の2年連続のBクラス。6月、やっと開催にこぎつけた頃は「試合があるだけで幸せ」だったファンも、うまくいかない試合があまりにも続くとわかりやすく表情が曇っていく。
先発オーダーは120試合に対して100通り以上あって、固定されなかった。それは選手のけがを避けたり疲労を考えてのものだと承知していても、調子がいいと思われる選手がスタメンから外れると、勿体ないような、何だか消極的なような気もした。