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選手の“ちょっとした変化”を見逃さない

――言い方を変えると、どうやって選手たちをヤル気にさせているのか。選手たちと非常に良くコミュニケーションを取っている印象を受けるのですが。

「その答えになるかどうかは分からないけど、何気ないところまでしっかり見ておくことは大事かなって思います。たとえば練習で走行距離を測るためGPSの腕時計をつけさせていて、いつも右手にしているヤツが左手にしていると“どうしてきょうは左なんだ”とか声を掛けます。“スパイクの色を変えたな”でも何でもいい。ちょっとした変化に対して見逃さないようにしている。アイツ、ウォーミングアップから気持ちが入ってないなって気づくと、秀人(鈴木ヘッドコーチ)たちにも言って共有する。選手の(気持ちの)温度には相当敏感にやっているつもりです」

――見ることが大切だ、と。

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「知る、情報を集めるということも大切。自分にはいろいろなツテがありますから、選手のプライベート情報などもいろいろと入ってくる。そういうのをちょっと選手に伝えると、“えっ、どうして知っているんですか”となる。そこからのQ&Aだったり、見る、知ることでコミュニケーションする。“見てんな、知ってんな、このオッサン”と思ってくれればいい。話すことで選手の温度を分かっておくことが大事なんです。その温度が分かっていないと、温度の違いに気づけなくなる。温度を分かったうえで、もちろん厳しいこと、きついことも言いますよ」

――たとえば全体練習の後も居残りで川又堅碁選手のシュート練習を指導したり、個別でもトコトン付き合うのが名波流かな、と。

©文藝春秋

「まあ自分が一番シュートうまいから仕方ないですね(笑)。ストライカーは難しいバウンドをワンタッチで打たなきゃならない、そういうシチュエーションが多い。(想定した)シュート練習が今、活きているとは思います。継続してきたことが結果につながると、それが自信や財産になってくれる」

――4年ぶりに2ケタ得点をマークした川又選手は「俺が決めんでも、チームで点が取れれば何でもいい」と言ってます。

「そう考えるようになってから、点をたくさん取り始めた。ゴールはみずもの。そういうポジションだからこそ余計にチームのことを考えておかないと、自分のところにボールが来なくなる。自分のことしか考えないヤツなら周りも“なんだアイツは”ってなりますから」

選手とも普通にメシを食いにいきますから

――「規律」や「平等」も重視していると感じます。

「平等と言っても、固執しているところはありますよ。キーパーのカミンスキー、センターバックでキャプテンの大井健太郎、そして中村俊輔。これは選手たちにも言ってますから。11個のポジション全部が競争じゃない、絶対なヤツもいる、と。

 ただ選手の出し入れで言ったら、調子のいいヤツが出るべきだとは思う。人間には必ずバイオリズムがあるから、そのてっぺんじゃなくて、てっぺんに向かって上昇しているときにチャンスを与えることを意識しています。公式戦の先発、サブ、または紅白戦のレギュラー組に入れてみる。松浦がベンチから外れたときはチームとしても苦しい時期だったけど、“俺にもチャンスがあるんじゃないか”と思って頑張るヤツがボコボコでてきた」

©文藝春秋

――見る、知る、寄り添う。そしてみんな一緒になってチームをつくっていく。言葉にすれば「兄貴分的マネジメント」とでも言えるでしょうか。

「人からどう見えるかは別として、危機管理とちょっとぬるい感じ、その両方をさじ加減しているつもりです。監督のタイプとしてはコミュニケーションをあまり取らない人がいるかもしれないけど、俺はトコトン取りますね。選手とも普通にメシを食いにいきますから。(選手は)感じるところがあったら、心に火もつくじゃないですか。直に接するところは、これからも大切にしていきたいですね。

監督、コーチ、選手、スタッフみんなで一緒にチームをつくっていこうぜっていう雰囲気じゃないと、サッカーは面白くない。自分だけやればいいなんて思ってサッカーをやってきたこと、自分は一度もないですから。やっぱりみんなで一緒にやっていくからサッカーというスポーツは面白いんだと思います」

(#2に続く)