#1より続く)

 ジュビロ磐田のリーダー、名波浩は選手に「監督」とは呼ばせない。チームの「10番」を背負う中村俊輔は「選手感覚が凄くある人」と、「名波さん」を表現する。

 眺めていると、確かに“選手”を見ているようだ。

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 セットプレーになればキッカーの振る舞いと変わらず、ピッチ横に置くペットボトルの水を軽く口に含む。イライラしている相手の外国人選手に「冷静にやろうぜ」と言わんばかりに頭をなでる。12人目の選手がベンチ前にいるような感覚を受ける。

 ディエゴ・シメオネのようなオーバーアクションはない。とはいえ、鼓動と感情は伝わってくる。チームに闘志を吹き込む「絵になるリーダー」は、名波浩だからこそ成立する。

©文藝春秋

指導者の面白みは人を育てること

――アウェーの川崎フロンターレ戦(7月29日)。試合が始まる前から名波さんはベンチに座るのではなく、雨に濡れながらピッチ横に立っていましたよね。選手の闘志をかき立てるために敢えてそうしたようにも見えたのですが。

「いやいや(笑)。俺の場合はひざが悪いから、冷えて(患部が)固まると歩きづらくなるでしょ。まあでも(ピッチ横で)選手の近くにいたほうがいいというのはありますよ」

――チャント(応援歌)がある監督も珍しい。

「確かに、チャントまである監督さんってなかなかいないと思うので有難いですよ、やっぱり」

――名波さんはジュビロのレジェンド。クラブの復活に懸ける思いは人一倍強いと思います。将来を考え、U-20W杯に出場した小川航基選手をはじめ若い芽を伸ばそうとしています。

「監督としてこだわりたいのは、人を育てる面白味です。そこを放棄してしまったら“お前、監督をやっていて楽しいか?”って自分の心が言ってくるはず。勝利至上主義を否定するわけでも何でもなくて、可能性のある若い選手がいれば、なるべく蓋はしたくない。芽を伸ばしたいし、そこが指導者の面白いところだから」

――中村俊輔選手は「名波さんは5年後、10年後に優勝争いがしっかりできる新しいジュビロをつくろうとしている」と話していました。

「たとえば去年は残留するという目標があったなかで先を見据えて3バックに取り組みましたけど、あちこちから散々言われましたよね。でもいくら批判されようが、自分のなかで周りや外的要因は一切排除しているし、気にしない。ただそれを選手が“違うんじゃないか”って疑い始めたら、チームづくりは難しくなります。長い目というわけじゃないけど、段階とともに積み上げていく部分がある。2年周期で変えなきゃいけなくなるチームづくりじゃなくて、俺は10年ここで続けたいと思っているんでそういうチームづくりを目指していますから」