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中村俊輔の獲得にこだわった理由

――ほぼすべてを公開練習にしてファン、サポーターから「見られる」とはどういうことなのかなどと、選手に人間的な成長を促しているのも名波さんらしいマネジメントです。

「人の目にさらされると、意識も変わります。選手同士が削り合っていたら、絶対に“すまん”となるじゃないですか。見られることで厳しい雰囲気だけじゃなく、楽しそうにサッカーをする雰囲気も出てくるから、(2014年9月に)就任以降、そうしてきました。もちろん優勝を狙えるクラブづくりを意識しています。ただ、チームを率いる人間には夢を売るということにプラスして、人を育てる、人をつくる役割も絶対にあると思うから。人間形成も頭に入れながらやっています」

――その意味でも、プロの姿勢とは何かを示すことができる俊輔選手の獲得にこだわったのでしょうか。

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「俊輔が入ってきたとき、若いヤツに自分の経験をいろいろと話してやってほしいとは伝えました。俺にもレッジーナでドボドボって塩水が出てくるシャワーの話をしてくれたけど、面白かった。厳しい環境のなかでも上昇志向を持ってやっていけば、俊輔みたいになれるんだっていうのがみんな分かると思うので。俊輔にはいっぱいボールに触って、アイツ自体が試合を楽しんでほしい。そうしてくれれば見ているほうも楽しいし、俺だって楽しいので」

©文藝春秋

――その俊輔選手の古巣、横浜F・マリノスと4月に対戦した際、マリノスの応援席から彼に向けてブーイングが起こりました。「サッカーマガジン6月号」のインタビューで名波さんはその件に触れ「どのような意味が込められていたのか分からない」と前置きしながらも「ブーイングが聞こえてきたときは、やはり寂しいと感じてしまった」と語っています。敢えてそのブーイングに触れるあたりが、兄貴分っぽいな、と。

「あくまで俺の個人的な意見です。俊輔は日本サッカー界の功労者だし、彼の立場も、酸いも甘いも噛み分けた経験や苦労も、もっとリスペクトしてあげたいなという考え方。実際俺はクラブから大事にされてきたし、だから自分もクラブを大事にしているつもりですから。

 俊輔は今ジュビロの一員だし、守りたいというのもある。ジュビロで言えば、今はチームから離れた松井(大輔)、小林(祐希)も功労者だし、仲間は大切にしたい。これからも仲間であることに変わりはないんだから」

――名波さんは人と人のかかわり、人と人の絆を非常に大切にしています。グループを強くしていく一つのキーワードのように感じます。

「一つのことをみんなでやり遂げようとするなかで、このジュビロのエンブレムを身につけている以上は、その道から絶対に外れちゃいけない。誰一人として。もし外れそうなヤツがいたら、俺じゃなくても気づいたヤツが救い上げてやっていこうよっていうチームづくりかなとは思いますね」

――大切なのは、信頼するということなのでしょうか。

「人というのは、つながっていくもの。もし誰かが“名波みたいなダメな監督の言うこと聞かないほうがいいよ”と選手に吹き込むとしますよね。でも、ダメか、いいかを判断するのはその選手。関係をつなぐも切るも、結局はその人次第です。俺は周りの誰に言われようが、自分で判断する。そして一度信頼した人間を、自分からは手を離さない。(信頼して)いっぱいつながっていくことで、本当の意味で強い組織が出来上がる。俺はそういうチームを、このジュビロでつくりたいと思っています」

©文藝春秋