ただし、国家財政は苦しくなるし、度が過ぎると労働意欲を失って生産性が下がる。
結果として、我々がなすべきことは、平均的な賃金水準の働き手の生産性を向上させて、賃金を上げていく――という、地道で真面目な取り組みになってくる。ここをクリアせずに安易な答えだけを探していると、必ず袋小路に入ってしまう。中産階級の生産性を上げて豊かにしていけば、分断は緩和されることにも繋がってくるのだ。
日本企業、そして日本という国が集中すべきこと
そんな状況下で、日本はどのように生き残れば良いのか。
いま日本には幸か不幸か、GAFAのようなグローバル市場の勝ち組がほとんどいない。貧富の差は欧米が直面しているほど大きくなく、今回の大統領選で目の当たりにしたようなシリアスな分断は起きていない。不満が爆発して暴動などが発生することもない。そういう部分に社会資本を費やさなくていいのは、日本の優位性になる。
コロナショックは大きな災いであるものの、その変化をエンジンにできる。そのとき、「ローカルな産業群」に目を向け、より大多数の平均的な働き手の人たちの生産性と賃金をどう上げるかということに、企業経営者も、日本という国も集中すべきだと提言したい。
ローカルな産業群は、医療機関も、バス会社も、旅館やホテルも基本的に地域密着型なので、GAFAのような化け物は生まれにくい。そこはむしろいい点だ。これから出てくるAIなどデジタルテクノロジーを使って生産性を高められる余地も大きい。たとえ大成功しても、アメリカのように空間が分断されるほど経済格差は広がらないから安心できる。誰もが民泊情報サイトの「Airbnb」みたいにグローバル市場を意識する必要はないということだ。空中戦でなく、こつこつ地上で戦っていける。
いま日本の中堅・中小企業、あるいは大企業でもそういうローカルな産業を担っている人たちは、コロナ禍で大変な時期だが、これを乗り越えられたら大きなチャンスが待っている。
もちろん、この変化を乗り越えるには、刀や槍から鉄砲に武器を替えるぐらいの覚悟が必要だ。これまで遅れていた分の伸び代があると意識して、経営者も働く人たちも自ら変わる努力は必要となる。