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ホームレスの人たちが余ったパンを売る「夜のパン屋さん」をはじめた理由

枝元なほみ(料理研究家/ビッグイシュー基金共同代表)――クローズアップ

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「10月16日のグランドオープンでは、用意していたパンが1時間ほどで売り切れてしまいました」

 笑顔で語るのは料理研究家の枝元なほみさん。2019年にビッグイシュー基金の共同代表に就任し、そのプロジェクトのひとつとして「夜のパン屋さん」をオープンした。

枝元なほみ

「ビッグイシュー日本」は雑誌の路上販売という形でホームレスの人に仕事を提供する企業。枝元さんが関わるようになったきっかけは、人生初の「営業」だったという。

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「以前からビッグイシューのシステムに魅力を感じていたので、インタビューにきてもらったときに『私にもなにかやらせてください』と言ったんです。それで人生相談と料理の連載を持つことになって。自分から仕事のオファーをしたのはそれが初めてでした」

「夜のパン屋さん」は、ある篤志家の寄付をもとに、枝元さんがアイデアを出して実現した企画。パン屋さんで余ってしまいそうなパンを預かって販売し、売上の一部が販売した人自身の収入となる。現在は神楽坂のかもめブックス軒先で木・金・土曜日の19時半からパンを販売している。

「参加してくださっているパン屋さんは、個人営業のこだわりのパン屋さんが中心。きちんと作ってくれたパンをまっとうしたい、という思いがあるから、卸し値はそのパン屋さん自身に決めてもらっています。だってそれぞれ原価も違えば、人件費も違うから」

 このプロジェクトには「ビッグイシュー」販売者に新たな仕事を作ることと、フードロスを減らすことの2つの目的があるという。今年ノーベル平和賞を受賞したWFP(世界食糧計画)が食品ロスと飢餓をなくすために行っている取り組み「ゼロハンガーチャレンジ」に関わったことも、着想のきっかけになった。

「料理の仕事を30年近くやってきて、『早い』とか『安い』とか『うまい』とかはもうそろそろいいかな、って思い始めていて。もっと根源的なところで食と関わりたいという欲求が出てきました。自分は生産者と消費者のちょうど真ん中にいるから、その関係がねじれたり、ズレたりしているのを直すことができるんじゃないかって。『チームむかご』をつくって農業を応援しているのも同じ気持ちからです」

 これからは企業の責任としても、フードロス削減が重視されるのではないかと枝元さんは言う。

「いろんなパン屋さんを訪ね歩いて参加のお願いをしているんだけど、フードロスを出す率が高いスーパーやコンビニにはなかなか参加してもらえない。今は志の高いパン屋さんとやっていきながら、そのうちこっちがメインストリームになれたらいいですね。私たちが何を選んで食べるかで社会を変えることもできる。ヤバいと思うことをスルーしないで、当事者意識をもって自分のやれることからやっていきたいです。それに、『ビッグイシュー』の販売をしているのは男性ばかりだけど、夜のパン屋さんだったらきっと女性も働ける。困っている女性の声も、ここから聞いていけたら、と思っています」

えだもとなほみ/1955年、神奈川県生まれ。農業などの生産現場とキッチンを結びたいと、一般社団法人「チームむかご」を立ち上げる。『クッキングと人生相談』(共著)、『枝元なほみのリアル朝ごはん』など著書多数。

INFORMATION

「夜のパン屋さん」プロジェクト
https://www.bigissue.jp/2020/09/16335/

ホームレスの人たちが余ったパンを売る「夜のパン屋さん」をはじめた理由

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