18世紀のフランス、ブルターニュの孤島で出会った2人の女。親に結婚を決められた貴族の娘エロイーズと、彼女の肖像画を描きに来た画家のマリアンヌ。境遇も家庭環境も異なる2人は徐々に心を通わせ、やがて恋に落ちる。

 カンヌを始め世界各国の映画祭で話題を呼んだ『燃ゆる女の肖像』(12月4日公開)は、女同士の愛を綴ったラブストーリー。女の自立も自由恋愛も許されない時代の物語。だが監督のセリーヌ・シアマは、これを悲劇としてではなく、情熱と幸福に満ちた映画に仕上げた。

セリーヌ・シアマ監督 ©GettyImages

「愛の話を描きたかったんです。これまで描かれることのなかった女性の欲望というテーマも含め、2人の女が恋に落ちるまでの過程をじっくりと描きたいと思いました」

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 劇中に男はほぼ登場しない。女だけの空間で進行するシンプルな構成に驚かされる。

「もしここに男性が登場すれば、男が女を支配し抑圧する物語になったでしょう。私はそうしたくはなかった。抑圧や支配のない場所では、女性には様々な可能性があり喜びに満ちた状態でいられる。この映画ではそういうポジティブな要素を大事にしたかった。女性しかいない特殊な環境において、2人がどんなふうに見つめあい、互いの感情を探り、協働関係をつくっていくのか。それをこそ描きたかったんです。また撮影スタッフも女性が中心です。映画のなかで画家とモデルとが対等な協力関係にあるように、撮影現場でも同じような環境をつくりたかったから」

 すべてのシーンが驚くほどの緊張感を持ち、目が離せない。なかでもラストシーンは観客の目を釘付けにする。

「実は脚本で最初に書いたのがあの場面でした。3分ほどの短い時間のなかに、2人のそれまでの人生すべてが凝縮されている。そんなエネルギーに満ちた最後にしたかった。そこでまずラストシーンを書き、それから他のシーンを順番に書いていきました。

 脚本は、常に1シーンごとに書き進め、それを最後にまとめる手法をとっています。この映画はだいたいこんなあらすじで中盤にこういう出来事があって、という書き方はしたくない。一つ一つのシーンの力を何より大事にしたいんです。誰がどう動いて次にどこへ移動するかというような説明的な描写もありません。ここはこう撮影したいと自分自身にインスピレーションを喚起させるシーンを書く、それが重要です。それだけの力を感じなければその場面は採用しない。そうやって時間をかけて書いていきます」

 カメラの動きも独特だ。

「いつもダンスの振り付けのようにカメラの動きを考えています。例えば絵を挟んで向き合う2人がゆっくりと近づくシーン。ここはワンシーンワンショットで撮りました。徐々に距離が縮まり欲望が高まる様子を、彼女たちの心臓の鼓動と寄り添う形で撮りたかった。それによって、見る人も彼女たちの緊張と鼓動を1緒に体感してほしい」

 最後に監督はこう断言した。

「これは愛に捧げた映画です」

Celine Sciamma/1978年フランス生まれ。2004年に脚本家としてデビューし、07年に『水の中のつぼみ』で長編監督デビュー。『燃ゆる女の肖像』はカンヌ国際映画祭脚本賞&クィア・パルム賞を受賞。

INFORMATION

映画『燃ゆる女の肖像』
https://gaga.ne.jp/portrait/