しかし意を決して飛び込んだオートレースの世界でも、決して好感を持って迎え入れられたわけではない。オートレースに詳しいライターが当時の厳しい“空気"を振り返る。
「そりゃあ、オートレースの運営サイドからすればビッグニュースだし、注目されて嬉しい、という感じでした。でもレーサーたちにしたら『面倒くさいヤツが入ってきたな』という雰囲気。自分たちの利益になるわけじゃないですからね。森の出場するレースにだけ若い女性ファンが詰めかけることもあって、嫉妬というかやっかみの視線で見られていたと思いますよ」
芸能界からも、オートレース界からも冷たい視線を浴びながらの再スタートだった。それを覆したのは、シンプルな努力の積み重ねだったという。
「いざスタートすると、その熱心さで周囲も認めていくようになりました。練習の時間も長いし、バイクの整備も自分が納得するまでとことんやる。何より、元SMAPであるというスター然としたところを全く出さないんですよね。本気でレースがやりたくて来たんだな、仲間だなと周囲に認められていきました」(前出・オートレースライター)
SMAP時代から「レース」への関心は人一倍
前出のスポーツ紙記者も、森がオートレース界に受け入れられていくのを見ながらSMAP時代のエピソードを思い出していた。
「オートレース転向を発表する2カ月くらい前でしょうか、森さんがラジオでJRAの騎手と対談したことがありました。そのときの森さんはこちらが驚くくらい真剣で、最初は仕事へのプロ意識かなと思ったのですが、あれは『レース』を仕事にする人への興味が溢れていたんでしょうね。しかも森さんのお父さんが熱心なオートレースファンだというのも後から知りました。小さい頃からレース場によく行っていたと聞き、その頃からの夢を叶えたんだなと感じました」
晴れてオートレーサーになった森は、1997年7月6日のデビュー戦で優勝する。会場の川口オートレース場には普段の倍以上となる3万5000人のファンが押し寄せ、森の単勝車券を買うために窓口には大行列ができた。女性の観客も普段の10倍近かった。
しかし周囲に強い印象を与えたのは、騒然とした空気の中でも決して綻びない森の謙虚さだった。