自前では立ち上げられないクラブのために、データサイエンスを提供する会社も出てきた。
チェルシーの元アカデミーコーチが創設したAnalytics FCは、リバプールのモデルを参考にアルゴリズムを構築し、数理的に選手を評価できるようにしている。リーズ、ウェストハム、ウェスト・ブロムウィッチなどが使用中だ。
AIを活用して選手がフィットするチームを発見
オランダのSciSports社は異なる機械学習の使い方をしている。
複雑なデータはあえて使わず、各国で行われる試合の「先発メンバー」、「交代選手」、「試合タイプ(リーグ、カップ戦、代表戦)」、「スコア」、「レッドカード」、「試合レベル」だけをアルゴリズムに入力する。
試合当日、先発が発表されたら、「SciSkill」と呼ぶその選手たちの能力値を元に、機械学習で構築したモデルで試合のスコアを予測。試合後、予測と実際のスコアの差を元に、各選手の能力値を計算し直す。
SciSkillを多くのリーグでカバーすることで、似たキャリアを辿った選手のデータを機械学習し、選手の成長曲線を予測できるようになった。クラブは欲しいタイプの選手を設定しておけば、同社から毎週オススメの選手を自動的に教えてもらえる。リヨン、アヤックス、バーゼル、フランクフルト、ボルフスブルク、パーダーボーンなど、すでに50クラブが使っている。
AIが代理人から奪うのは「スカウト」の仕事だけではない。「転職仲介」においても代理人を凌駕する例が出てきた。
イギリスのメディア『The Athletic』が「サッカーの改造:移籍、スカウト、指導の現場でデータが溢れている」という記事で、象徴的なエピソードを紹介している。
オランダ代表FWのメンフィス・デパイが、マンチェスター・ユナイテッドでジョゼ・モウリーニョ監督の戦術に馴染めず、出番が減っていたときのことだ。デパイの代理人はSciSports社に相談。三者面談の結果、デパイは「左からドリブルでき、試合のテンポが早く、前にスペースがあるときに力を発揮できる」と考えていることがわかった。
同社はそれらの情報を元に、どのクラブに移籍すべきかを彼らのシステムで検索にかけた。5クラブが候補に上がり、その最上位に示されたのはフランスのリヨンだった。AIが、「リヨンこそがデパイが一番活躍できるチームだ」と予想したのである。
そして、その予想は的中する。
デパイはリヨンで復活し、昨季のCLではベスト4進出の原動力になった。