デパイの例は短期的には代理人とAIの幸せなコラボレーションのように見えるが、長期的には代理人の仕事が侵食される第一歩になったと言える。AIの登場によって、確実にクラブの代理人依存度は減って行くだろう。

 悪徳代理人の横暴には、ついにFIFAも規制に乗り出している。

悪徳代理人は生き残れるのか…? 白泉社「フットボールアルケミスト」1話より

 FIFAは2015年に代理人のライセンス制度を廃止し、ここ数年間は業界の自浄作用に委ねていたが、『フットボールリークス』の暴露によって重い腰を上げざるを得なくなったのだ。

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 現在、2021年にライセンス制に戻し、規制を強化することが濃厚になっている。たとえば、移籍において「売り手クラブ」、「買い手クラブ」、「選手」の代理人を複数担当することは禁止される見込みだ(買い手クラブと選手の代理人だけ兼任可能)。

 手数料にもメスを入れ、売り手クラブの代理人を務めた場合は移籍金の10%、買い手クラブの代理人を務めた場合は選手給与の3%、選手の代理人を務めた場合は同じく給与の3%が上限になる。

 もはやこれまでのような天文学的な金額を稼ぎだすことは不可能になった。代理人にかつてない逆風が吹き始めている。

“悪徳代理人”はAIに駆逐されてしまうのか

 だが、これまで業界を牛耳ってきた「フットボールマフィア」が大人しく裏舞台から去るわけがない。すぐに抜け道を見つけるはずだ。たとえば、選手の肖像権使用料に紛れ込ませ、“追加報酬”をタックスヘイブンにある子会社に送金させる――といったように。

 多くの一般企業と同じように、クラブによっては上層部にテクノロジーアレルギーが根強くある。

『The Athletic』によれば、バルセロナは前述のフェルナンデスがいるにも関わらず、その知見を選手獲得に生かせておらず、内部から「特定の代理人に頼りすぎている」という批判があがっているという。結局どんなにAIが発達しても、最終決定をするのは人間なのだ。

内部崩壊が顕著なバルセロナの運命は… ©文藝春秋

 AI vs 代理人。

 どちらが勝つにせよ、サッカーという劇にとって個性豊かな演者が多いほど盛り上がるのは間違いない。ピッチ外で始まった新たな頭脳戦が、サッカーのエンターテイメント性をさらに高めていくだろう。

フットボールアルケミスト』(木崎伸也(原作)/12Log(漫画))は、2019年11月より「ヤングアニマル」(白泉社)にて連載開始。選手の代わりにクラブと交渉し、よりよい条件を提案するサッカー代理人をテーマに、敏腕代理人の先崎とインターンとして採用されたリサの活躍と成長を描く。2020年10月に第2巻が発売。