コロナ禍で注目を集めた「パソコン決裁」
しかし、世のデジタル化が進んでも「パソコン決裁」の売り上げは伸び悩んだ。それでも改良を進め、販売を続けていたが、その状況を一変させたのが今回のコロナ禍だ。
「捺印のために出社する」という問題の解決策になればと今年3月に無料開放したところ6月末までに27万件の申し込みがあったという。ようやく25年前の挑戦が花開きつつあるのだ。
昔ながらの会社と思われがちなシヤチハタだが、いちはやく電子印鑑システムの構築に取り組んだように、これまで独自のデジタル技術を磨いてきた。
バーコードやQRコードに代わりえる技術
「今、期待しているのが個別認証技術です。2008年にインキの着色の違いをナノレベルで識別し、個々の商品を認証する技術を開発しました。たとえば、高価なブランド品を買ったときに、製品ラベルを撮影してサーバーに送信すると、保存してあるデータと照合して本物か偽物かを判断できます。
印影の偽造防止策を研究するなかで、ラベルなどの印刷物は色の微粒子の配置が個々に違うことがわかり、その応用で開発したシステムです。
この個別認証技術は、理論上は無限個を個別に識別できます。また、個々のインキの着色の違いを見るので、バーコードやQRコードのように新たな画像も必要ありません。バーコードやQRコードに代わりえる技術だと自負しています。
ただ、たとえばバーコードを使っているところは、すでにそのシステムが完成していて新たに個別認証のシステムを作るのはハードルが高い。あと、1億個の中の1個を識別できる個別認証のニーズが果たしてどこにあるのか、まだ答えが見つかっていません。ブレイクさせるには勉強が必要ですが、可能性のある技術だと思っています」
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創業100年を超える老舗企業が脱ハンコの流れをどう受けとめているのか、それでもハンコが消えない理由、コロナ禍でヒットした意外なスタンプ商品の裏話、もともとスタンプ台を作っていたのに、スタンプ台のいらないスタンプを作ってヒットさせるなど、「自己否定がDNA」というシヤチハタが見据える未来など、舟橋正剛社長が語った「『脱ハンコ』はチャンスでもある」は「文藝春秋」12月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
「脱ハンコ」はチャンスでもある