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群馬県過失運転致死事件 なぜ88歳の被告人は自ら「逆転有罪」を求めたのか

2020/11/23

genre : ニュース, 社会

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 地裁判決が出たのは初公判から1年半後の2020年3月5日。判決は無罪。理由は、運転中の被告人の意識障害が事故の原因で、その意識障害は薬の副作用で血圧が下がったことによる可能性が高いので、被告人としても、予測出来ないものだった……という内容。

A被告人は当時血圧を下げる薬を服用していた(写真はイメージ) ©️iStock.com

 そして、今年8月。この裁判の控訴審が10月に決まったという報道がありました。遺族や被害者が無罪判決に納得いかなくて控訴したんだろうなぁと思っていたら、被告人も納得いってなくて有罪判決を望んでいるとのこと。

 有罪判決を受けた被告人が逆転無罪の判決のために控訴するのは普通によくあるケースですが、無罪判決を受けた被告人が逆転有罪判決を求めるなんて……。日本の裁判史まで話を広げると確証はないものの、個人的な20年程の傍聴の中では初。相当なレアケースです。

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どんな主張が出るのかと思いきや…

 一体、どんな主張をするのかが注目されたA被告人の控訴審初公判スタートです。

 法廷に入ると、弁護人は1人。これに対し、検察官は6人。この人数だけでも有罪判決を勝ち取るぞという意気込みが感じられます。一方、A被告人は不出廷。控訴審は出廷の義務はないので自由ですが、何とも肩透かしの不出廷です。

 裁判官3人が入廷してきて審理開始。といっても、控訴審はどんな事件を今から扱うのか、どんな証拠を提出するのかなど細かい説明は一切行いません。

「検察官のご意見は控訴趣意書の通りである、と。弁護人も控訴答弁書の通り」という裁判長に、軽くうなずく検察官と弁護人。

 その後の証拠確認も早々に終わり、

「以上で、証拠調べは終了します。ここで被害者参加の意見陳述ですけど、書面の提出でよろしいですね?」(裁判長)

「はい」(検察官)

 と、開廷してから3分弱でどんどんと進んでいきます。控訴審だし、こんなもんだよなぁと思っていたところ、この一言から事態は急転したのでした。

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