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群馬県過失運転致死事件 なぜ88歳の被告人は自ら「逆転有罪」を求めたのか

2020/11/23

genre : ニュース, 社会

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 2020年10月6日、A被告人の控訴審初公判が行われました。罪名は、過失運転致死傷。場所は東京高等裁判所の102号法廷。東京高裁で最も広く大きな法廷です。と言っても、コロナの感染対策で着席可能な席は3分の1だけ。「不使用」と書かれた紙が貼られた席は文字通り使えないので、司法記者席を除く一般傍聴席は28席しかないのです。

 傍聴席がそれしかないのに、この裁判は傍聴券の交付はなし。要するに、早い者順で傍聴が可能というパターンです。

 14時開廷にも関わらず、お昼休みが始まり、法廷前の扉が開放された12時頃から行列が出来上がる102号法廷前。ちょっとずつ、ちょっとずつ人が増えて、最終的には24人が並んでいました。2時間待たなくても結果的には傍聴できたってことですが、この程度の注目度と言うことなんでしょう。事件の時も、初公判の時も、判決の時も、そして、この控訴審初公判の日程が決まった時も、それなりに大きく報じられてたと思うんですけどねぇ……。

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控訴審初公判が行われた東京高等裁判所 ©️文藝春秋

一度は下った無罪判決

 事件からここまでの流れを一度振り返ってみましょう。

 2018年1月9日午前8時25分。群馬県前橋市の県道で、自転車で登校していた女子高生2人が、反対車線を逆走してきた車にはねられるという事故が発生。16歳の女性は死亡し、18歳の女性は重傷を負い、車を運転していたA被告人(当時85歳)が逮捕されました。

 事故から10ケ月後の2018年11月、前橋地裁で初公判が行われました。起訴状は「医師から車を運転しないよう注意されていたにも拘わらず運転した」という内容で、被告人は、「医師から運転やめろとは聞いていない」と否認。弁護人も「被告人は血圧を下げる薬の副作用で運転中に意識を失った可能性が高い」と、事故は予見できなかったと無罪を主張したのです。