今年のジャニーズからは、芸能活動のピークにいた山P(山下智久)や手越祐也らが退所した。こうした様々なジャニーズの緊急事態から見えてくるのは、今のジャニーズ事務所が、かつてのファミリー主義を捨てつつあるということ。
ファミリー主義の逆とはなにか。能力主義である。政治哲学者のマイケル・サンデルは、能力主義の蔓延は危険だと指摘している。「努力と才能で誰にでもチャンスが与えられる社会」が実現しすぎたことが、むしろ困難に直面する人を増やしているとサンデルは指摘する。
「勝ち組を傲慢にし、置いてけぼりにされた人たちに対して優しさを示さない社会」(2020年11月1日クーリエ・ジャポン「バイデンが大統領選で勝っても、根本的な問題は消えない」より)という言葉は、まさにその危惧を反映している。
実力主義は、理想的な平等な社会のはずだったが、それが徹底された世界は、成功者が脱落者を見下ろすディストピアだったということ。一回でも失敗すれば徹底的に引きずり下ろされ、すべての責任を自分でとらなければいけない。まるで今のジャニーズ事務所である。
ダメなマッチが長兄であることの大切さ
現在最前線で活躍するジャニーズのメンバーは、歌も踊りもできた上で、バラエティーや社会問題へのコメントでも能力を発揮し続けなければいけないというプレッシャーを受けている。最近はジャニーズも高学歴化が進んでいる上に、各種資格(特殊重機免許から気象予報士まで)を取得し、さらなる特技(囲碁とか将棋とかクイズ)まで求められる。そして、一度私生活でミスをしたら即放逐、ワンアウト交代制が最近のジャニーズに顕著になっている。
全人格的に能力を兼ね備えないと生きていけない日本の近代社会を教育学者の本田由紀は“ハイパー・メリトクラシー”と名付けた。かつてのファミリー主義を捨て、歌や踊りの実力で評価される実力主義を一気に飛び越えて、人格的な高潔さ、多才さまで求める。滝沢秀明副社長体制のジャニーズ事務所で進んでいるのは、間違いなくこのハイパー・メリトクラシー化である。
歌も踊りもまったくだめ。社長をめぐる権力闘争からも脱落してしまった上に、不倫というスキャンダルで評判を落とした近藤真彦を事務所がどう扱うのか。やんちゃさが取り柄の兄貴がファミリーの長兄として君臨すること。それが意外と大事だってことは、きっとサンデル先生だって認めてくれるはず。