国内外で注目を集める画家・池田学さん。構想2年、制作に3年3ヶ月をかけた大作『誕生』を中心とした「池田学展 The Pen―凝縮の宇宙―」が日本を巡回、9月27日からは東京・日本橋高島屋にて開催される。巨大作品の細部に秘められた思いから、画家とギャラリーの関係についてまで、ご本人に伺った。
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3×4メートルを3年かけて、1日10センチ四方ずつ書き進めた
――それにしても大きい画ですね。どれくらいの大きさになるんでしょうか。
池田 縦3メートル、横4メートルです。僕の作品はよく「超絶技巧の細密画」とか言われるんですが、確かに1日に10センチ四方描き進めるようなペースで制作していくんです。ですからどうしても3年かかってしまったわけなんです。
――大きさは先に決めていたんですか?
池田 今までで一番大きな作品に挑戦したかったので、3×4メートルという大きさは先に決めていました。この作品はアメリカのウィスコンシン州マディソン市にあるチェゼン美術館のスタジオを借りて描くという、ちょっと異例の制作だったんですが、高さ3メートル、幅1メートルのパネルを4枚合わせたものに挑む感じでしたね。
――どこから描き始めたんですか?
池田 左下の隅っこ、この瓦礫を描き込むところからです。僕はいつもそうなんですが、全体の構図は描きながら考えていくんです。だから、自分でも完成したときにどんな構図になっているかはわからない。描き直しもしない。左下からどんどん右へ進んでいく感じで描いていきました。
――ペンで細かく細かく、カリカリ描いていく感じなんですか?
池田 そうですね。この『誕生』には丸ペンのペン先を400本以上使いました。
――途方もない感じがしますが、池田さんにとっては物理的な大きさだけでなく、テーマも大きなものだったのではないですか?
池田 震災はこの作品の大きなテーマです。僕は2011年の1月から文化庁の新進芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに家族と滞在を始めていたので、当時は日本にいませんでした。それゆえのもどかしさもあったと思いますが、事態の深刻さを目の当たりにすると「絵を描くことがなんの役に立つんだろう」と考え始めたり、さらには「今までの画はもう見たくない」「もう描きたくない」というところまで思い詰めてしまった。僕の作品に『予兆』(08年)という、まさに津波が押し寄せるような構図のものがあるのですが、こうしたモチーフをフィクションとして描いていた自分を「のんきに絵を描いていただけだ」と責める気持ちも強かったりしました。