「07:00 仕事開始 27:20 退庁」。そんな強烈な帯文が目に飛び込んでくる書籍が発売された。タイトルは『ブラック霞が関』(新潮新書)。著者は2019年9月まで、厚生労働省でキャリア官僚として勤務していた千正康裕氏だ。同書の中で千正氏は、勤務時間が20時間以上にも及ぶその働き方を、「忙しい部署の若手のよくある1日」と紹介している。
こうした長時間労働が常態化した霞が関では、心身の不調を訴えたり、退職していく職員が増え続けているという。「このままでは霞が関は崩壊する」と語る千正氏に、いま官僚たちの世界で何が起きているのかを聞いた。
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霞が関が「おかしい」とは思っていなかった
――霞が関で働き始めて、最初に「この働き方はおかしいな」と感じたのはいつ頃のことでしたか。
千正 実は入省してからずっと、そこまでおかしいとは思っていませんでした。というのも、僕が入省したのは20年ほど前(2001年)で、その頃は民間企業もブラックなところが多かったんです。霞が関も異常でしたけど、民間企業に就職した同級生たちも夜遅くまで働いていたし、土日や休日に出勤するのも当たり前でした。だから、それほど気にしてはいなくて……危機感を持ちはじめたのは、この2年くらいですね。
――そこで何が変わったんでしょうか。
千正 数年前から、退職する若手が増えているというのは話題になっていました。ただ、それだけでは「すぐに組織が崩壊する」という感じではなかったんです。でも、バリバリ働いていた中心選手の管理職や中堅の課長補佐の中にも、倒れる人、家庭を壊しそうになる人、離職する人が相次いで出てきました。
いまは官僚の家庭も共働きがほとんどなので、男性職員も家庭での責任があります。小さい子供がいるのに徹夜で働いて朝に帰る、みたいな生活をしていると、相手にワンオペを強いることになるわけですよ。で、フラフラになって家に帰ると夫婦で喧嘩になる。そうすると、もう何のために働いているんだろう……と。
雑談をする暇もなくなった
――以前と比べて、職場の雰囲気も変わってきていますか。
千正 すごく静かになりましたね。雑談をする暇もなくなったので。僕が入った頃は、上に行けば行くほど暇だったんですよ。管理職はみんな本とか読んでいるし、局長みたいな個室にいる偉い人たちは、テレビで国会中継を見ている。そんな感じだから、若い人も上の人に相談がしやすかったんです。
でも今は、上から下までみんな余裕がなくてあたふたしているから、「こんな忙しい人の手を止めていいのか」と思ってしまいます。仕事上の最低限の話はできても、「ちょっとこういうことで悩んでいるんです」とか、「この政策についてどう思いますか」とか、そういう会話は全然できなくなっている。若い人にとっては、困っても相談できる人がいない状態で、辛いという声もよく聞きます。