若手の退職者が急増している
――実際の数字として、20代のキャリア官僚のうち、自己都合退職をした人が2013年度は21人だったのに対し、2019年度は87人にまで増えていることも話題になりました。特にこの2年急増していますね(2017年度38人→2018年度64人)。
千正 本来、世の中が求めている官僚の機能というのは、国民に本当に届く、良い政策を作ることだと思います。だから、今の官僚たちが置かれている状態は世の中にとっても良くないし、本人たちの働き方としても良くないわけです。なので、国民の生活や利益と全然関係のない、無駄な仕事が多い今の状況を見直す必要があります。
これが実現すれば、退職者は減ると思います。もともとパブリックマインドというか、そういうものを持っている人が入ってきている職場なので、世の中のためになっているという実感があれば、必ずしも「定時で帰りたい」みたいなことを夢見ているわけではないんですよね。超ブラックで家庭や身体を壊すのは論外ですけど。
今では退職する人のタイプも変わってきました。昔はどちらかというと、官僚の仕事についていくのが難しかったり、合わない人が辞めていたんですけど、最近では一番働いていた人、中心にいた人が辞めている。今いなくなったら困る、という人たちです。これでは下の人たちも頑張る気が起きない。組織が壊れる入り口に、もう入っているんです。
国会に近いところが一番ブラック
――霞が関の中でも、特にブラックなところはどこでしょうか。
千正 国会に近いところが一番ブラックなんですよね。それは、自分の裁量で動けないからです。自動車でいえば部品工場(霞が関)と組立工場(国会)のような関係なので。組立工場に買ってもらわないと、どんな部品を作っても市場には出せない。官僚が作る商品(法律案や予算案)は国会が了承しないと世に出せない。だから、国会議員はいつも「明日までにもってこい」とか「今すぐ説明に来い」と言ってくるし、それに対して官僚は逆らえないという状態になっているんです。
――国会議員から頼まれた仕事の中で、一番大変だったのは?
千正 そうですね……。僕個人はそこまでひどいことは経験していないんですが、やっぱり国会審議での質問は早く作ってほしかったです。委員会などで国会議員が何か質問をするときは、あらかじめ担当省庁の官僚がその議員に呼ばれて、質問の内容を通告されるんです。
質問通告は与野党の申し合わせで、原則2日前の正午が通告期限になっているのですが、このルールは守られていなくて、前日の夜になることがほとんどです。こうした仕組みは各国にあるものですが、通告が前夜になるというのは日本だけです。
このために、国会期間中、官僚は毎晩のように“国会待機”をしています。議員からの通告を夜まで待って、もし自分の部署に関する質問が来たらその議員のもとへ“質問取り”にいき、そこから翌朝の国会に向けて全速力で答弁を用意するんです。