――退職していく人が増えているのは、やはり仕事量の多さが一番の要因なのでしょうか。
千正 退職する理由は二つでしょうね。ブラックだということと、やりがいを喪失しているということです。大学の同級生が就職した大企業などと比べて給料が安いから辞める、という人はあまりいないです。サービス残業の問題は解消すべきですが、もともと公務員の給料がどれくらいなのかはわかって入ってきているので、過酷な労働とやりがいの方が問題です。
働き方をブラックにさせた「官邸主導」
――なぜ「やりがいの喪失」が生じているのでしょうか。
千正 役人になる人は、やっぱり社会のために、みんなのために働きたい、と思って入ってきています。でも最近は「やらされ仕事」が増えていて。
――やらされ仕事?
千正 「官邸主導」は、政策が早く大きく動くようになったので、それ自体は良いことだと思っています。でもその影響で、誰かが決めた話が突然降ってきて、「とにかくこれを急いでやりなさい」と指示される仕事が増えています。もともと官僚は、実態を理解した上で、自分たちで政策の種となる課題を見つけてきたりして、「こういうふうに変えたら世の中が良くなるんじゃないか」と提案していく仕事です。僕もそうやって法律などを作ってきましたが、今はそうした「自分たちで解決策を考えられる仕事」がどんどん減ってきているんです。
それは、働き方がブラックになっている要因でもあります。かつての“官僚”主導の時代は、自分たちが物事の決定に対して実質的な影響力を持っていたので、マンパワーなどを考慮して、霞が関の仕事がちゃんと回って、現場のオペレーションがちゃんと回って、その上で生活者に届くスケジュールで工期を設定することができました。自分たちが疲弊するような意思決定は、そもそもしなかったんです。
「早くやれ、早く配れ」
千正 でも、最近はスケジュールさえ自分たちで決められないことが増えている。たとえば今年、国民一人あたり10万円の特別定額給付金や、布マスクの全世帯への支給が決まりましたが、公務員が必死になってがんばっても、届くまで時間がかかりましたよね。
――「今すぐ欲しいのに届かない」との声も多くありました。
千正 これらも官邸主導の政策です。ただ、政策というのは意思決定して終わりではなくて、給付金やマスクを配ると決めたなら、誰がどんな仕事をして配るか、給付金であればそもそもどのように申請してもらうかなど、間に入るいろいろな仕事のことを考えなくてはいけない。官僚は、そうした実務に詳しいんです。
ところが、世の中の期待や政権の支持率だけを優先すると、間の仕事のことは考えず、とにかく早くやれ、早く配れという話になる。そのプレッシャーのなかで、かなり無理なこともいっぱいあったと思います。以前からこうした政治状況の中、実務を無視したスケジュールでいろいろな意思決定がなされるということが、官僚や現場の公務員を疲弊させてきました。それがコロナによって本当に色濃くなったという印象です。