2.加害者から見た示談
このケースだけについていえば、弁護士は示談をとりまとめることができ、胸を撫で下ろしているといえます。しかし、すべての事件がこのように進むわけではありません。
金銭を受け取るくらいなら、加害者の厳罰を求める被害者もいますし、そうでなくても嫌悪感や恐怖、不安から示談する気になれない被害者もいるのは当然でしょう。
(1)被害者との連絡は簡単ではない
被疑者側弁護士にとってまず最初の難関は、被害者と連絡をとることが必ずしも容易ではない点です。
痴漢などの性犯罪では、加害者が被害者を「誰だか知らないまま犯罪をしている」ケースが多く、そのような場合、当然加害者は被害者の連絡先を知らず、示談をするためには担当の検察官から連絡先を教えて貰う必要があります。
しかし多くのケースで、被害に傷ついている被害者は加害者とあるいは加害者の弁護士と連絡を取りたいとも思わないことが多いでしょう。強制性交のような酷い犯罪ではそのような可能性が一層高いと思われます。
また仮に偶然連絡先を知っている関係であったとしても、検察官を通しての連絡を拒絶している被害者が示談に応じる可能性は極めて低いと言わざるを得ませんし、被疑者側弁護士が検察官を通さず直接被害者に接することで問題が起きる場合もあります。
(2)示談の相場はあるのか?
次に、示談には相場があってないようなものであると言う点が挙げられます。
弁護士には、一応の相場観がないわけではありません。
むしろこれくらいのことをしてしまった事件ではこれぐらいの金額を支払わねば、という相場感覚は、ある程度事件の数をこなした弁護士であれば頭に浮かんでくるでしょう。例えば本件が着衣の上からの痴漢行為なら、弁護士は10万から50万のどこかを念頭に置いていたのかもしれません。
また示談金は判決のように公開されているものではありませんが、量刑資料の一部を参照するなどの方法で、過去の事件の示談金についても少し知ることができるケースがあります。
とは言え、これは弁護士が勝手に考えている「相場」に過ぎません。
「相場の金額」を弁護士が被害者に押し付ける事はもちろん許されませんし、被害者は嫌ならいつでも連絡を絶つことができます。被害者が納得できる金額、というものはあくまで被害者個人の感覚によるのです。
とすれば、「連絡を受けるかどうか」「いくらで示談を受け入れるか」は完全に被害者の手に委ねられており、被害者は強い立場でいくらでも条件を吊り上げられそうにも一見、見えます。