子どもの通う小学校にも外国人が当たり前のように混ざっていて、英語教育の必要が教育の現場で叫ばれるところで、そもそもその語学って、一緒に暮らす我々の差を確認するためにあるんじゃないかとすら思います。日本人同士ですら個性があり、こだわりや好き嫌いがあって、人間関係でぎくしゃくし、阿吽の呼吸では意思疎通がむつかしい局面が多いのに、ましてや外国人を受け入れるときにどうしなければならないか。
ナイキが浮き彫りにしたのは「多数派が、そうと思わずにしてしまっている差別」
ビジネスの現場でもそうですし、学校教育で教職員が直面している(であろう)障害を乗り越えるには、おそらくは、ナイキの放った問題動画が浮き彫りにした「多数派が、そうと思わずにしてしまっている差別」に気づくことなんだろうなあとは思います。たぶん、多数派のアメリカ人は、アジア系である私がプールに入ったら無意識にプールから出る、それが差別感情だとははっきり認識はしていないのかもしれません。見ていたら、トルコ人やシンガポール人がプールに入っても、彼らはすっとプールからあがっていました。
歳を取れば、彼らがそういう無意識な差別感情を表すような場所になるだけ出くわさない知恵や、世の中には「日本人だから」「アジア系だから」というだけで差別する人は絶対数としているのでそういう差別意識のない人を選んで付き合うという工夫をするようになります。
そして、そういうデリケートなことも分かって、また、これがどんなに炎上しても表現の自由でありナイキが言わんとしていることを理解してくれる人だけナイキの商品を買ってくれ、という案外強い感じのメッセージなんだろうなあと改めて思うのです。
じゃあナイキも中国国内のサプライチェーンが理由でアメリカ政府の進めるウイグル人強制労働を防止する法案に対して骨抜きにするような提案をするなとか、いまなお国交のない北朝鮮人を題材にして日本の高校にチマチョゴリで通うような雑な動画で日朝の分断を煽ろうとするななどという反論もあったうえで、ナイキの言いたいことはよく分かりました。
次のジョギングシューズはナイキペガサスにしようと思います。
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