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「あのビラは衝撃なんか全然なかった。名指しされたメンバーのなかには、運動にあまり関係がない純粋な労働者もふくまれていて、争議団の実態をあまり知らないな、という感じ。実際にまだ情報がなかったんだろうな」

 西戸組の情報が不足していたにせよ、公然と殺人を予告した意味は重い。しかもビラは手書きであり、警察が捜査すればこの予告だけで立件しても不思議ではない。警察は殺人予告を無視あるいは黙認したことになる。しかし、争議団が警察をあてにすることはもちろんなかった。

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「11月4日になんで争議団側が32名も逮捕されたか、という問題があるんですよ。近藤(注:金町一家の傘下団体、金竜組構成員)を撃退したあと、金町一家が襲撃してくるぞ、という情報が入っていたんだろうと思います。釜ヶ崎からの派遣部隊やほかの応援も来ていて、みんなで竹竿とか棒を手にして労働センターの前で気勢を上げていたわけです。でも、そのときはもう機動隊に取り囲まれていたんですね。金町一家に対抗しようという気持ちだけで、警察の動きまで見えなかった。それで凶器準備集合罪でやられたんです。

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 山さん(注:争議団幹部メンバー山岡氏)は、『この戦いは早く終わらせないとまずい』と言っていたんですけど、その直後に逮捕されてしまった。要するに、それまで労働組織がヤクザと正面切って対決したことはないんでね。山さんは直感的に危険を察知したんだと思いますよ」(三枝)

組織と組織の全面対決に感じた危うさ

「寿町の塩島組闘争もそうだった。南さんが塩島組(双愛会系、横浜)のヤクザを相手の事務所で締め上げちゃったけど、そのあとわれわれは逃亡したよね。これも現実的な判断だったと思う。ヤクザが事務所でやられるというのは屈辱的なことだからね。簡単な労働争議というレベルじゃない。俺らがヤクザと闘争してもらちが明かないし、寿(横浜)のほかの組合にも迷惑をかける。だからそれ以降、われわれは塩島組に一切関知しないということでね」(キムチ[注:争議団メンバー])

「鈴木組闘争(釜ヶ崎)だって、悪質業者の親玉としての鈴木組が相手だった。だから悪質業者を謝らせればそれでいいし、向こうが謝らなくても労働者が勝った、という立場がつくれたらそれで解決する。鈴木組にも左翼組織をつぶそうという意図はないしね。

 だけど『11・3』というのは組織と組織の全面対決でしょう。おたがいに相手の組織を殲滅(せんめつ)するという構造になっているのはまずい、と山さんは感じたんでしょう」(三枝)