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「特殊作戦群」を生んだ元陸将が語る 未来兵器「レールガン」の開発事情

元陸将による軍事シミュレーション小説『オペレーション雷撃』著者インタビュー #2

2020/12/18

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 読書, 社会, 国際, テクノロジー

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 陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任し、特殊作戦群の創設にも関わった元陸将・山下裕貴氏が初めて書き下ろしたミリタリー・シミュレーション小説『オペレーション雷撃』(文藝春秋刊)が話題を呼んでいる。

 日本の最西端・与那国島に国籍不明の潜水艇が漂着したことを発端に、沖縄・宮古島と石垣島の間に浮かぶ多良間島に謎の武装勢力が強行着陸し、先島諸島周辺に大規模な通信障害が発生。日本はもとより、アメリカ、中国政府を巻き込んだ未曾有の事態に発展していく、背筋の寒くなるほどリアリティにあふれたストーリーである。

陸上自衛隊時代、陸上幕僚副長として米軍との会議に参加する著者。(提供=山下裕貴)

 物語の中で大きなファクターとなるのが、謎の武装勢力が多良間島に持ち込む「レールガン」。この「レールガン」は、アニメ化もされたコミック『とある科学の超電磁砲(レールガン)』や、戦闘メカアクションゲームシリーズ『アーマード・コア』、映画『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』など、数多くのSF作品やアニメに未来兵器として登場する。『オペレーション雷撃』を上梓した山下氏が、レールガンの実際と開発の現状を語る。(全2回の2回目/前編を読む)

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◆◆◆

レールガンは電磁力を利用した大砲

山下 レールガンは通常の大砲のように火薬の力ではなく、電磁力によって砲弾を飛ばす、現在世界各国で実用化に向けて開発を急いでいる実在の先進兵器です。

 具体的には2本のレールの間に飛翔体(弾体)を置き、電流を流すことで起きる電磁力によって加速させて撃ち出します。

 高校の物理で習うローレンツ力を思い出してください。レールの間に弾丸を挟み、弾底部の電機子に瞬間的に大電流を通電すると「フレミングの左手の法則」により、弾体を加速する電磁力が生まれます。理論上、火薬を用いる大砲に比べてはるかに大きな発射速度と飛翔距離を得ることができます。アメリカでは相手側の戦略上の優位性を技術力によって相殺する、オフセット戦略のひとつの柱として位置づけられています。

海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「いずも」。現在は、F35B戦闘機の運用のため改修中。艦首にミサイルなどを迎撃するための迎撃システムCIWSが装備されている。(写真=編集部)

――レールガンは具体的にどのように使われますか。

山下 レールガンは、従来の火砲に比べて射程(攻撃できる距離)が200キロ以上になると期待され、射程の長いことに加え、撃ち出す弾体のスピードがマッハ5以上と極超音速なので、これが目標に命中すると、大きな衝撃力が発生し、相手に大被害を与えることができます。弾体の大きさによっても変化しますが、米海軍の実験映像では重さ約10キロの小さな弾体でも、何枚も重ねた分厚い装甲板がいとも簡単に打ち破られてしまうほどの威力です。私が上梓した『オペレーション雷撃』の中でも、中国軍のレールガンに攻撃された海上保安庁の巡視船が、16マイル先において一撃で轟沈してしまいます。