1ページ目から読む
3/3ページ目

最大のネックはパーツの小型化

――実用化に向けて最大の難関はなんでしょうか。

山下 なんといっても最大のネックは電源部及びコンデンサの小型化です。

 現在、地上実験においては数台の大型車にコンデンサを搭載して展開しなければならず、この小型化が課題です。また大発電量も必要としており、将来的にレールガンを搭載するといわれているズムウォルト級ミサイル駆逐艦は最大80MW近い発電能力がありますが、それでも最大2門の装備が限度といわれています。それだけの電力を発射の際にいったんコンデンサバンク(バッテリーのようなもの)に溜め、一気に射出するのですが、このコンデンサバンクも巨大なものにならざるを得ません。

ADVERTISEMENT

電源には、コンパクトながらケタ外れの電力を生み出せる核融合炉が理想的で、アメリカなどは軽自動車に載るくらいの小型核融合炉を作れるといっていますが、我が国ではなかなか難しいでしょうね。

富士総合火力演習で120mm滑腔砲を放つ陸上自衛隊の90式戦車。レールガンが実用化されれば、陸上装備体系は大きく変化することになるだろう。(写真=編集部)

 

弾体そのものの材質も課題

――ほかに課題となっていることはなんでしょう。

山下 弾体そのものの材質についても、空気との摩擦による熱に強い材質を求めて、各国とも試行錯誤している段階だと思います。また、飛翔する弾体の軌道(弾道)を安定させる方法も研究途上です。発射直後に安定翼を開いたり、何らかの方法で強制的に弾体に回転を与えて安定させる方式などが考えられています。現在、弾体の発射後のコントロールはできませんが、将来的には発射した弾体を精密誘導できれば理想的です。

 けれども、ここにも難関があります。発射する弾丸が極超音速の高いレベルになると、周囲にプラズマ(気体が陽イオンと電子に分離した状態:電離化)が発生します。宇宙船の大気圏再突入時に通信が途絶するのを見てもわかるように、このプラズマが通信を妨害するので、GPS誘導などが難しい。これをどう解決するかが問題です。プラズマが問題にならない程度まで速度を落とすこともひとつの方法です。レールガンではありませんが、ロシアが開発している極超音速ミサイルなどは同じようにプラズマの影響を受けるはずですが、成功しているようなので、その技術も見極めながら解決していくことになると思います。

著者の山下裕貴氏 ©文藝春秋/今井知佑

――従来の火砲やミサイルに比べ、大きな利点を持つレールガンだが、まだまだ研究途上であることも確かだ。特に中国軍のように動力部に核融合炉を使うというアイデアなどは、国民感情的に難しい部分もあり、我が国単独で実用化することは困難だろう。

 しかし研究しておくことは無駄ではない。将来他国との共同研究開発を考えた場合や、実用化されたレールガンをアメリカなど他国から導入するに際しても、ある程度の技術力は当然必要となってくるからだ。

(構成・井出 倫)

オペレーション雷撃

裕貴, 山下

文藝春秋

2020年11月19日 発売

【内容紹介】
『オペレーション雷撃』
文藝春秋刊 四六判並製 320ページ/定価(本体1800円+税)

日本最西端の島に漂着した一隻の潜水艇。孤島に強行着陸した「琉球独立団」を名乗る謎の武装組織。彼らが狙うのは、そう、〈あの島〉――。
国防最前線を知り尽くした自衛隊元陸将、衝撃の小説デビュー作!
2つの軍事作戦をめぐり、台湾海峡に緊張をはらむ中、米中、そして日本の暗闘が始まる。迫真の諜報・特殊作戦スペクタクルロマン。

【著者略歴】

山下裕貴(やました・ひろたか)

1956年、宮崎県生まれ。1979年、陸上自衛隊入隊。

自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第三師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任。特殊作戦群の創設にも関わる。

2015年、陸将で退官。

現在、千葉科学大学及び日本文理大学客員教授。