少人数による潜入作戦や対テロ作戦など、鍛え上げられたエキスパートたちが通常の部隊では不可能な作戦を遂行するのが、特殊部隊である。アメリカ陸軍のデルタフォースや、海軍のネイビーシールズなど、映画やドラマなどで特殊部隊の活躍を目にすることは多いが、もちろんこれはフィクションの世界だけではなく、世界各国の軍隊/警察組織には、こうした任務を遂行するための部隊が必ず組織されているといっても過言ではない。
我が国も例外ではなく、陸海の自衛隊、各都道府県の警察、海上保安庁に特殊部隊と呼ばれるものが編成されている。
なかでも精鋭といわれるのが、陸上自衛隊の「特殊作戦群」だ。創立時より今日まで、その訓練内容や装備などが一切公表されていないという、秘密のベールに包まれた部隊でもある。
国籍不明の潜水艇が日本最西端・与那国島に漂着したことを発端に繰り広げられる米中、そして日本の暗闘を描き、話題を呼んでいる本格軍事シミュレーションノベル『オペレーション雷撃』(文藝春秋刊)。初めての書き下ろし小説となる同書を上梓した元陸将、山下裕貴氏は、この特殊作戦群の創設に深く関わった。いわば“生みの親”でもある。
米中関係が膠着化し、台湾海峡にも緊張感が高まるなか、日本の「危機」に対応すべき精鋭部隊である特殊作戦群について、山下氏が語る。(全2回の1回目/後編を読む)
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これからの国家間紛争はハイブリッド戦
山下 陸上自衛隊に「特殊作戦群」が誕生したのは、平成16年(2004年)のことです。
準備のために陸上幕僚監部の中に特殊部隊編成委員会が作られ、そこで私は編成班長として直接編成責任を負い、創設に関わる部隊編成や保有する装備なども選定しました。
その後、10年ほど後には、陸上幕僚副長の時に再度、特殊作戦群の管理責任者を務めました。今の群長(2020年8月~)の後藤仁志一等陸佐とも陸上幕僚監部勤務での旧知の仲です。
――小説『オペレーション雷撃』のなかでは、沖縄の宮古島と石垣島の間に浮かぶ離島・多良間島を占拠した謎の武装勢力に対し、潜水艦を使ってひそかに上陸した特殊作戦群を中心とするチームが反撃するわけですが、現実でもこういった運用がなされるのでしょうか?
山下 これからの国家間紛争はハイブリッド戦が多用されるだろうといわれています。これは、通常の軍隊同士による正規戦以外に、正体を隠しながら潜入して行われるテロなどの非正規戦、情報を遮断・攪乱するサイバー攻撃・電子戦、その他の情報戦などを複雑に組み合わせたものです。その中で非正規戦を担うのが「特殊部隊」です。
私の初めての小説『オペレーション雷撃』のクライマックスでも描きましたが、個々人のスキルを生かして少人数でありながら高度かつ困難な任務をやりとげるために、特殊作戦群は設立されています。