ライバルの上条聖也に痺れた
舞台となるのは、決して煌びやかなだけじゃないホストの世界。綺麗な女たちが男に貢ぎ、何千万という金額が飛び交う中で、男たちがより高い売り上げを目指してしのぎを削る。「主人公の的場遼介にはあまり関心がなくて、僕は断然、ライバルの上条聖也派だったんですよ。僕のルックスも聖也風なところがあるでしょう(笑)。赤い薔薇の花束を抱えてポルシェのオープンカーで登場するシーンのカッコ良さにも痺れたし、どんなことをしても勝つというこだわりや、その裏で大変な努力をしていたりというところに、すごく共感したんです」
彼の自伝的漫画である『ローランド・ゼロ』は、その『夜王』を描いた漫画家・井上紀良が作画を担当している。物語の中では、漫画というバーチャルな世界でローランドが聖也と出会い、存在を認められるシーンが出てくる。それは「うれしかったです」とローランドは言う。
「ローランドである特権というか、『ここまで頑張ってきてよかった』と思う瞬間でしたね。僕にとって『夜王』がバイブルだったように、この作品が誰かにとってバイブルであってくれたらいいなと思うし、僕も誰かの“聖也”でありたいと思います」
「もうこの世界で前に進む以外ない」
男ばかりの世界で本気でサッカーにのめり込み、プロを目指していたローランドは「女の子なんて、お化けくらいに見たことなかった」という。それなのにホストに、しかも「伝説のホスト」になってみせると決心した。そこには大きな距離があるように思える。それを埋めたものはなんだったのだろうか。
「『自分は世界を変えられるんじゃないか』という、ポジティブな勘違いです。僕の持論で、『ステップアップに必要なのは“ちょっと素敵な勘違い”』というのがあって。いろんな人に成功の秘訣を聞かれるたびに、『ちょっと素敵な勘違いだよ』って答えるんですけど、それこそが俺という人間を支えてきたものなんですよ。よくよく考えると、それまで彼女もできないほど厳しくストイックにサッカーに打ち込んでいた自分が、歌舞伎町でもやれるんじゃないかと思うなんて、素敵な勘違いもいいところですよね(笑)」
他人から見ると、それは自暴自棄と映るかもしれない。知らない場所へ、しかも歌舞伎町という世界に飛び込むのは怖くなかったのかと問うと、ローランドは静かに言った。
「あの時の僕は、夢も目標も失って、死にながら生きているような感覚だったんです。魂が抜けて、もはや死ぬことにすら恐怖がなかったというか。だから親に『ホストになる』と告げて、勘当同然で家を出て、退路を断って行きました。戻れる場所や、泣いて帰っても温かく迎え入れてくれるようなよりどころがあると、大多数が甘えてしまう。『ここでやるしかない、もうこの世界で前に進む以外ないんだ』と心を決めて、歌舞伎町のホストクラブの寮に入りました」
だがその道もまた、厳しく険しいものだった。ローランドは店で初めてついた女性客のことが未だに忘れられないという。「話しかけて、一生懸命に歩み寄るんだけど、全然口をきいてくれなかった。他のホストと彼女との会話の蚊帳の外にやられて、ただ天井を見上げて一晩やり過ごして」。サッカーの道を諦め、「死にながら生きて」いたローランドの“大逆転”は、そんな一夜から始まった。
(後編に続く)
撮影=山元茂樹/文藝春秋
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