希望すれば結婚前の姓を選ぶことができる「選択的夫婦別姓」。長い間議論されてきた問題で、近年の調査によれば賛成派がおよそ半数を占めており、反対派は10%前後にとどまっている。その一方で政治側の動きは重く、つい先日も菅首相が「時間をかけて対応する」としたように、制度が変わるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
しかし今現在、結婚を考えているカップルにしてみれば、悠長に制度の変化など待っていられない。この問題に直面した40代の女性が、再婚相手に出した“ある条件”とは。(常田裕/清談社)
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「世の中には自分の姓を変えたくないっていう女性がこんなにいるのに、現時点で法律はまったく変わりそうにないじゃないですか。なら、私は姓を変えずに結婚してみようかなって思ったんです。面倒くさいけど、折れたら自分が負けな気がして」
こう話すのは今年4月に再婚したばかりの女性・佐藤麻美子(仮名)さん。佐藤さんはちょうど30歳の時に一度、結婚を経験しているが3年程で離婚。40代に入って新しいパートナーとの生活を始めたという。
姓を変えた最初の結婚
「最初の結婚の時は普通に籍を入れて相手の姓に変えました。何の疑問も持っていませんでしたね。ただ、とにかく名義変更の手続きはメチャクチャ面倒臭かったです。婚姻届を出したら住民票を取って、まずは警察署で免許の変更。次にその免許を持って銀行で名義変更。口座は一つじゃないし、面倒すぎて『もういいや』ってそのまま名義を変えなかった口座もありました。
多くの男性は婚姻届にハンコを押して提出すればそれで手続きは終わりかもしれませんが、姓を変えなければいけない女性はそうじゃないんです」
他にもクレジットカードや各種引き落とし、携帯電話など、多い人では20近い手続きをしなければならないケースもあるという。しかも、女性側の負担は時間や労力だけではない。
「全部の手続きはとても1日じゃ終わりません。公共機関は平日しかやっていないので、手続きをするために仕事を何日も休まなければならないのも負担でした。それに交通費や手数料とか地味にお金もかかるんです。たとえばパスポートの名義変更だと、当時は追記ページに変更後の氏名を記載する『訂正申請』で6000円。切替申請で10年を選ぶと16000円の手数料がかかりました(訂正申請は2014年3月に廃止)」
不満は感じたものの、この時は特に疑問を感じることなく、粛々と制度に従った。ただし、結婚しても職場では旧姓のまま通すことにしたという。