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「といっても、特に信念や主張みたいなものがあったわけじゃありません。単にそのままにしたほうが面倒が少なかったから。もちろん会社に結婚の報告はしましたけど、名刺も変えなかったし、経費精算の申請書類に押すハンコも旧姓のままでした。特に何も言われませんでしたね。取引先にもわざわざ連絡はしていません。

 考えてみれば納税などはともかく日常生活で新しい姓を呼ばれるのって、新しい健康保険証を使って病院に行ったときぐらいで、旧姓のままで特に困ることはなかったですね」

離婚して旧姓に戻ることに

 結局、最初の結婚生活は3年程で終わりを迎えるのだが、離婚して旧姓に戻ることになった佐藤さんには、再び面倒な名義変更の作業が待っていた。

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「最初に引っかかりというか、違和感を感じたのはこの時かもしれません。結婚のときはポジティブな気持ちだったから、『大変だけど、まあいいや』って乗り切れた。でもこの時は離婚ですから余計に腹が立ちましたね。なんで私ばっかり面倒な作業を押し付けられなきゃいけないの、って。

 ただ、私の場合はまだマシだったかもしれません。職場で詮索されることもなかったし、子供もいませんでしたから。子供の名字が変わるのがかわいそうだからって、あえて名前を戻さない人もいますよね」

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 離婚から7年後。40代となり新しく出会ったパートナーと交際を続けるうちに、結婚の話が出始めた。そこで佐藤さんは、相手に「ある条件」を出したという。

相手の反応は「一緒に住むならちゃんとしようよ」

「その頃には、もう結婚の制度に魅力を感じていなかったので、私から『事実婚にしたい』って提案したんです。理由はいろいろです。古い結婚制度に疑問があって、嫌だと思っている古い結婚制度に加担したくない、その一人になるのはちょっと癪だなという気持ちもありました。名前が変わるのも、女だからという理由で問答無用に受け入れなきゃならないっていうのも変だなって思ってた。

 前の結婚のときは同棲してから籍を入れたんですけど、生活はほとんど変わらなかったし、本当にただ面倒くさい手続きをしただけだった。だったら何が変わるわけでもないんだし、事実婚で良くない?って考えたんです」

 相談した再婚相手の反応は「いや、それはちょっと」という戸惑いだった。一般的な価値観で言えば、事実婚を提案され、「はい、ぜひ」と答える人はまだまだ少ないだろう。

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「最初はピンとこなかったみたいです。他人から見れば同棲も事実婚も同じですから、ただ『一緒に住みましょう』って言っても、相手は『いやいや、一緒に住むならちゃんとしようよ』ってなるのは分かる。でも私は結婚制度が嫌だったし、どうしても事実婚にしたかったんです」