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母親思いだった利恵さんの夢

 車に監禁、屈強な男たち3人に囲まれ、財布を奪われた利恵さんは「キャッシュカードの暗証番号を教えろ」と安物の包丁を突きつけられて脅された。利恵さんの膝はガクガクと震え、強姦をほのめかされた際には、交際中の彼を思い必死に抵抗した。

 もちろん利恵さんは犯人に「殺さないで」と訴え、生きようとした。しかし、取り上げられたキャッシュカードの本当の暗証番号を教えることなく、代わりにウソの暗証番号を伝えることで、利恵さんは「憎むわ(2960)」というダイイングメッセージを残す。結果、働いてコツコツと貯めた利恵さんの預金は、犯人たちに奪われることはなかった。

 その預金額は800万円あまり。犯人たちが小躍りしたというだけあって大きい額であるが、彼女にとってこの預金にはそれ以上に大きな意味があった。「お母さんに家を買って、プレゼントしてあげたい」……それが、明るく生真面目な31歳、利恵さんの夢だったのだ。

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利恵さんの母・富美子さん ©️東海テレビ放送

 しかし、利恵さんの夢は無残にも打ち砕かれる。ステンレス製の手錠をはめられ、脅され続けた利恵さんの告げた暗証番号を、犯人たちは疑いもしなかった。3人は利恵さんの頭にレジ袋をかぶせ、ガムテープで顔をぐるぐる巻きにした。首を締めたうえ、さらに利恵さんの頭部や顔面に力を込め、鉄のハンマーを何度も何度も繰り返し振り下ろす。それでも利恵さんは生きていた。「なかなか死なねえな」焦る犯人たち。

 やがて利恵さんの右足が痙攣しているのを確認すると「よかった、もうすぐ死にますね」「お疲れ様」という会話がされたという。利恵さんの死因は、窒息死だった。40回も振り下ろされたハンマーの痛みに、生きて耐え抜いたのだ。息をひきとる際には、どんなに苦しく無念だったことだろう。

「名古屋闇サイト殺人事件」の映画化『おかえり ただいま』

 この「名古屋闇サイト殺人事件」が映画化され公開となる。惨殺された利恵さんの母親は事件直後、街頭で涙の訴えによって「3人の犯人の死刑を望む」という署名を集め、裁判に臨んだ。そんな母の姿を追った2009年放送のドキュメンタリーに、斉藤由貴、佐津川愛美らが出演するドラマ部分を加え、再編集されている。

映画『おかえり ただいま』予告編

 

 本作の監督は、東海テレビ東京編成部長の齊藤潤一氏。齊藤監督は、今まで東海テレビのディレクターとして、数々の「司法シリーズ」ドキュメンタリー番組を作ってきた。本作の公開に先立って話をうかがった。