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「娘は虫けらのように殺された」闇サイト殺人事件の遺族が3人の死刑を求めた理由

ほほをつけた時の娘の異常な冷たさを今でもはっきり覚えている

 ネット掲示板「闇の職業安定所」で集まった互いに素性を知らない男たちが起こした凄惨な事件「闇サイト殺人事件」。何の落ち度もない被害者女性に対し、金目的で無差別に牙を剥くという無軌道な犯罪を起こしていながら、実行犯3人のうち2人は無期懲役判決が確定した。果たしてこの判決は正しいものなのだろうか。

 日本の刑事裁判の理不尽さを知悉する弁護士、ならびに被害者遺族による著書『死刑賛成弁護士』(文春新書)より、被害者遺族が語る現行の死刑制度についての思いを引用し、紹介する。

筆:磯谷富美子(被害者遺族)

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集まった33万筆の署名

「一人の被害者では、日本の司法では、なぜか死刑にはならないだろう」

 事件が起きて早々に、見ず知らずの方から送られてきた手紙の一節です。

 娘の磯谷利恵は、2007年8月24日から25日にかけて起きた強盗殺人事件の被害者となり、見知らぬ3人の男たちの手によって31歳という若さで人生を終えました。事件の概要は、名古屋闇サイト殺人事件の紹介のとおりです。判決は、被告3人の死刑求刑に対し、神田が死刑、堀と川岸は無期懲役でした。その後、神田は2015年6月に刑が執行されました。

死刑にならないなんて考えもしなかった

 この手紙を読むまでは、娘を殺害した3人の男たちは、当たり前のように死刑になると思っていました。しかし、何の関係も落ち度もない娘の命を奪ったのに、奪った者の命は保障されるというのです。当然納得などできるはずもありません。法律の知識など全くない私どもが思いつくのは、「3人の極刑を求める」ための署名活動しかありませんでした。

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 事件からわずか20日後に、姉と2人で活動をスタート。署名用紙を送る宛名書きは毎夜2時、3時まで続き、手首は腱鞘炎のような痛みを覚えるほどでした。娘の死を悲しむいとまもない多忙さが、精神的にはかえって良かったように思います。仕事に復帰してからも多忙な状態は続き、身体を心配した姉に説得され退職。また、署名用紙を求めて見知らぬ人が訪ねてくることもあり、ひとりで生活する事を考えると、怖くて転居せざるを得ませんでした。

 署名活動は、死刑を求める内容にもかかわらず、多くの方々が私たち遺族の気持ちに寄り添って賛同してくれました。「鬼畜としか思えない彼らの極刑を願います」「周りの友人知人に声をかけ、署名を募ります」「お母さんは一人ではありません。お母さんの後ろには応援する人が沢山ついています」などなど署名に同封されたお手紙や送られてくるメールがどれほど大きな支えになったことでしょうか。暗くて深い闇の中でひとりポツンと取り残され、涙も出ないほどに打ちのめされた私が一歩踏み出す勇気と元気になりました。皆様にはただただ感謝の気持ちで一杯です。この活動は全ての裁判が結審した事を受けて、娘の5年目の命日に終了しましたが、ご協力いただいた方は33万2806人になります。この間、一度も活動をやめようと思った事はありません。