2020年の正月、不動産業界各団体で開催された新年賀詞交歓会は、明るく威勢の良い挨拶で満ち溢れていた。2012年12月に「悪夢の民主党政権」から安倍政権に移行して以来、アベノミクスの甘い蜜を吸ってきた不動産業界は、潤沢な投資マネーの恩恵を一身に浴びて、地価の高騰、オフィス空室率の歴史的な低下、タワマンのバカ売れ、都心開発の陸続に沸き返っていた。

 そして来る2020年は、その集大成ともいえる東京オリンピック・パラリンピックの開催。誰しもが五輪の大成功を信じ、東京都心にはますます「ひと」「もの」「おかね」そして「情報」が集まり続けることを疑わなかった。五輪開催にあわせて、都心部ではホテル建設が急ピッチで進められ、老朽化したオフィスは続々と建替えられ、主要な駅舎はお化粧直しを施し、準備万端だったのだ。

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「何事であれ失敗する可能性のあるものは、いずれ失敗する」

 前年秋のラグビーワールドカップ開催の予想をはるかに超える大成功も、人々の気持ちを前のめりにさせた。毎月のようにインバウンド数は対前年同月の数値を更新し、京都は溢れかえるインバウンド客のご乱行に「観光公害」なる言葉まで飛び出した。

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 だがこうした盛況の陰で、五輪終了後の世界に不安を覚える向きもあった。かつて不動産業界は、92年頃に生じた不動産バブルの崩壊に苦しんだ。平成バブルの勢いに乗って多額の負債を抱え、資産取得を繰り返した結果、バブル崩壊で多くの不動産会社が倒産するという憂き目にあった。その後、不動産ファンドという、投資家のお金を集めて不動産投資を行う新しい投資手法でファンドバブルを形成した2000年代前半も、2008年に発生したリーマンショックにより、再び奈落の底を味わった。

 そして、東京五輪という宴が終了したあとも好況が続くのか、一抹の不安を抱えてきたのだ。日本人全体の高齢化、また、多くの業種でアメリカや中国から周回遅れとなっている産業界、あきらかに「落ちている」国力。それに照らして、不動産だけが我が世の春を謳歌し続けられるわけがないとの不安だった。

“Everything that can possibly go wrong will go wrong” 「何事であれ失敗する可能性のあるものは、いずれ失敗する」

 マーフィーの法則が耳に甦る。