オフィスに人々が戻ってこない
それでも当初はインバウンドの消滅と外出自粛によるホテルや旅館などの宿泊業と、大型商業施設の休業による売り上げ減少にすぎなかった。だが緊急事態宣言が終了したあと、驚いたことに、自宅でテレワークをしていた事務系ワーカーの一部がオフィスには戻らずに、そのまま在宅勤務となる会社が多く出現した。テレワークはあくまでも臨時的な働き方にすぎないから、コロナ禍が過ぎ去ったあとは通常の通勤に戻ると思い込んでいたが、テレワークの方が、生産性が上がる部門や業種、職種が確認され、オフィスを縮小、解約する動きが出てきてしまったのだ。
これは想定外だった。ホテルや商業施設ならばコロナ禍が終息すればいずれ消費は回復し、2、3年でインバウンドも戻るから我慢すればよい。流行りの女子高生言葉を借りれば「ぴえん」くらいの気持ちだ。
だがオフィスに人々が戻ってこなくなれば、オフィスを賃借していたテナントは床を返してくる。働き方が変わってしまうことは、これまでの成功の方程式が通用しなくなることを意味している。
“Anything that can go wrong will go wrong” 「うまくいかなくなりえるものは何でもうまくいかなくなる」
コロナ禍はオフィスや住宅にまで影響
さらに会社への「通勤」が必要なくなったワーカーにとって湾岸タワーマンションを長期にわたる住宅ローンで、生涯の給与債権を担保に購入せずともよくなった。週1回や月2、3回の通勤ですむのなら、三浦半島の先端や伊豆、房総や軽井沢や飯能など安い場所でかまわない。新築タワマンだけのポエムに耳を傾けなくなってしまった。
ホテルや商業施設だけのはずだったコロナ禍が本家本元のオフィスや住宅にまで影響が出始めた。これでは「ぴえんこえてぱおん」である。
想定外のことが次々起こるのは人生でも企業社会でも同じである。南アフリカの反アパルトヘイト運動の巨人、ネルソン・マンデラはこう言った。
“The greatest glory in living lies not in never falling, but in rising every time we fall”
「生きるうえで最も偉大な栄光は、決して転ばないことではない。転ぶたびに起き上がり続けることにある」
21年の不動産業界、大変革の年になりそうだ。