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予測不可能なナチュラルモンスター・ナダル

 コロコロチキチキペッパーズのナダルもクズ芸人として有名だ。彼は、『ロンドンハーツ』、『アメトーーク!』(ともにテレビ朝日系)などで人への失礼な発言、嘘、ごまかしで大ひんしゅくを買った。一方で、笑いに関しては非常に高く評価されている。

 筆者は先日、3年連続でM-1グランプリの決勝に進んだ見取り図を取材する機会があったのだが、ふたりはナダルについて「嫌いな芸人としてよく扱われるけど、お笑いに関しては天才。予測不可能なナチュラルモンスター」と大絶賛していた。

雑誌の企画で扮装するナダル ©文藝春秋

 確かにナダルは、番組のなかで芸人からパスを受け取る機会が多い。『八方・今田のよしもと楽屋ニュース2017』(朝日放送系)では番組中、霜降り明星・せいやとともに大物女優になるという催眠術をかけられたが、イマイチ役になりきれなかったせいやに対し、ナダルは瞬時にキャラクターを作り込んで憑依的な芝居を披露。着地点が見えず、番組そのものが大ヤケドを負いそうな即席コントのなか、場の空気を完全に支配して笑いをかき集めた。

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 ナダルがいれば何とかなる。どれだけ失言しようが、責任をなすりつけようが、芸人仲間にとっては信頼の厚い存在。そもそもクズ芸は力がないとできないもの。場の空気を引かせることなく、クズという欠点を笑いへ昇華させなければならない。クズ芸は相当な腕が必要なのだ。

 そのほかにも、友人らから金を借りまくっている元巨匠の岡野陽一は、『THE W』(日本テレビ系)で優勝した後輩芸人・吉住にカネをたかるやりとりをTwitterに掲載。岡野は吉住を「債権者様」と呼び、「祝福のメッセージありがとうございます」と自分のことのように喜んだ。

“金借り”を一つの芸にすらしている岡野陽一 本人Twitterより

 ただその様子は、クズ芸人という自分のスタイルを貫きながら、吉住のことを祝福しているようにも思えた。岡野は確かにクズだけど、憎めない男である。

お笑い界の処世術の一つとしてのクズ芸

 クズ芸人は、堕ちるに至るまでの過程も波乱万丈なのでエピソードトークに事欠かないし、状況によってどんなポジションにもつくことができる。理知的なところもある。何より、クズのやることは誰もマネできない。特別性があって、それらをきっちり笑いに変える腕を持っている。だから視聴者も安心してツッコミをいれたり、無責任に笑えたりする。お笑い界の処世術の一つとして、クズ芸は今後ますます注目されそうだ。