華やかなテレビ界の中で誰にも勝らず勝利する“クズ”芸人
鈴木はさらに同著で、「番組には魅力的な人たちがいっぱい出ていますから。ほかの出演者の総魅力量に、俺ひとりのキモさが勝るとは到底思えませんし」とも語る。これは、クズは稀有な存在であると言い換えることもできる。テレビ番組には、見た目や特技に秀でた才能を持つタレントが顔を揃える。華やかでポジティブな人材がひしめく世界のなかで、クズはまさに唯一無二。番組的には、クズ芸人がいることでほかのタレントの有能さをより際立たせることができる。視聴者は、「こんなクズが世の中にはいるんだから自分はまだ大丈夫だ」とセーフティネットにしても良いし、クズ話にブーイングして日頃の鬱憤を晴らすこともできる。
クズ芸人は、共演者、視聴者、いろんなものの比較対象や物差しになれる。そういった存在は芸能界に限らず、どこでも重宝される。ビジネスという点では、クズ芸人は誰にも勝らずして勝利しているのだ。
クズ芸人の第一人者としてのクロちゃん
ここ数年、クズ度でもっとも名前を広げたのは安田大サーカスのクロちゃんだろう。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の人気企画「フューチャークロちゃん」は圧巻の連続。女性タレントと食事デート中、相手が席を立った隙に彼女のドリンクのグラスを舐め回し、アイドルグループ・豆柴の大群のプロデュース企画ではオーディション生に私的な感情をちらつかせる……。息を吐くようにクズ行動を繰り広げて爆笑と悲鳴を誘った。
だが、さまざまな番組においてクロちゃんがメインとなるコーナーは頻繁にバズる。ちゃんと「結果を出している」のだ。視聴者は、クロちゃんが次はどんなヤバいことをやってくれるのか、見たくて見たくて仕方がない。怖いものが苦手なのに、ついついホラー映画を観に行ってしまう心理に近いのかもしれない。前述した唯一無二性にも通じるが、クズは普通では考えられない行動、発想を持っている。恥もへったくれもない。異質なものは、多くの人にとって興味の対象になる。