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国が始めた「切れ目ない支援」

 国は、これまでの政策の反省から、2014年に「妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援」として「妊娠・出産包括支援モデル事業」をスタートさせた。目玉になっているのがフィンランドのネウボラ(相談の場)をモデルにした「子育て世代包括支援センター」の市町村への設置で、2020年度までに全国展開を目指している。高齢者サービスの「地域包括支援センター」の妊産婦版とも言える。

 フィンランドでは、妊娠が分かれば病院ではなくネウボラに行く。ネウボラには保健師と助産師の資格を持つ「ネウボラおばさん」がおり、1つの家族に継続して関わり続ける。ネウボラでは情報提供や健康診断、両親教室が行われ、家庭訪問も行われる。産後には家庭訪問が産後6週までに2回あり、ネウボラで育児相談や両親サークルなども開かれている。ネウボラの特徴は、同じ担当者が「家族」に関わり続けること。母親だけでなく、父親へのサポートも行う。知っている人がずっと自分たちを見続けてくれているという、顔の見える信頼関係の中でのまさしく「切れ目ない支援」だ。

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「ネウボラはいいシステムですが、」と前置きして日本の文化に合った産後ケアの必要性を訴えるのは、母子保健政策に詳しく日本の政策決定にも関わってきた福島富士子東邦大教授だ。

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「ネウボラは、長い歴史の中で試行錯誤して制度化されてきたものです。日本も文化に合った『切れ目ない支援』、特に産後ケアを作っていく必要があります。本来子どもという存在は、大人に完全に依存する過程を経て、自立して大人になっていくものですが、特に今の日本の母親たちは幼少期にしっかり甘えることができず、健全な依存の過程を経ないで大人になってしまったために、育児に困難を抱えやすい人たちが多いと感じています。産後にしっかり他人に甘えることでまず母親が癒され、エンパワーメントされて自立していくこと、それが今の日本の産後ケアに必要だと思います」

 日本では親との問題を抱えたまま母親になる女性が多く、自己肯定感が低いために子育てに困難感を抱えている母親が多い――。これは筆者が「産後うつ」の取材を進める中で、複数の識者が指摘した問題点だ。産後ケアとは、ただ母親の体の回復や育児を助けるだけのものではなく、生き方そのものを支えることで、子育てのサポートにつなげるというものなのかもしれない。