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「ゼッタイ、1億か、2億はきとるで」

 たとえば、現金50万円をもらった60歳の広島市議(当選2回)の場合。彼は昨年春の統一地方選では、河井夫妻が住む地域の選挙区(定員10)において候補者16人中トップで当選を果たした人物だ。

 河井被告はその市議に2度に分けて現金を渡した。1度目は市議選の真っ只中に市議の選挙事務所を訪ね、30万円を置いていった。その時、「これ、総理から」と口にした。

 2度目は、問題の参院選が公示される1か月前。こんどは市議の個人事務所を訪ね、地元病院の理事長と会うための仲介や住民が案里被告を囲む飲み会の開催、選挙はがきの宛名書きなどを頼んだ。そして帰り際に「あ、これ、気持ちですから」と言い、1万円札が20枚入った白い封筒を渡した。

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河井案里被告 ©️AFLO

 驚くことに、市議は2度目の一部始終をICレコーダーでひそかに録音していた。しかも事件発覚後、それを検察に提出したのだ。約30分に及ぶ音声は、今年10月13日と12月2日に行われた公判で計2度、いずれもノーカットで再生された。

市議「なんぼ入っとった?」

 

妻「20(万円)」

 

市議「軽い感謝やな~。今日、(克行被告が)文句言ってきたら、たたき返したろうと思って、(1度目にもらった)30万円は持ってきた。よっぽど、お金持っとるんじゃのお。ゼッタイ、1億か、2億はきとるで。安倍さんか、どっかから」

 録音データの中には、克行被告が立ち去った後に市議とその妻の間で交わした、こんなやりとりが残されていた。

 後日明らかになったように、参院選をめぐり河井案里陣営には自民党本部から1億5000万円もの選挙資金が振り込まれていた。市議が妻にぼやいた「ゼッタイ、1億か、2億はきとるで」は御明算だった。

8月、家族で出かけた先は……

 しかし、それほど鼻が利く市議であっても、大きな「誤算」があった。自分がもらった50万円のとんでもない使い道が、克行被告の弁護人によってすっぱ抜かれてしまったのだ。

 12月2日の公判に検察側の証人として出廷した市議は、裏金の扱いについて「(河井夫妻の初公判があった)8月25日に克行被告の国会事務所に現金書留で送った」と証言した。

 一般的に、今回のようなお金は受け取った時点で河井夫妻に領収書を発行し、その年の政治資金収支報告書に記載しなければ、後になって返金したとしても罪に問われてしまう。それでも市議が返金したことを法廷で強調したのは、自らの信用性を繕おうとしたからだろう。

裁判が行われている東京地裁 ©️文藝春秋

 ところが検察にそう答えた約1時間後、克行被告に雇われたヤメ検弁護士がこう質した。

「あなたは(参院選直後の)昨年8月に家族でグアム旅行に行っていますねえ。9月には170万円になったクレジットカードの返済がある。それに(克行被告からの)50万円を充てませんでしたか?」

 ぐあむ?

 さっきと話が違うじゃないか――。

 私の頭の中には、南国の青い空と海、まっしろな浜辺で笑いながら寝そべる市議の姿がチラついた。

 市議は「そうです」と応じ、「手持ちがないので正直に『使った』と言いました」と続けた。

 痛いところを突かれたのだろう。モニターを通した「ビデオリンク方式」での尋問だったため、広島地裁の別室にいる市議の表情は東京地裁の傍聴席からはつかみにくい。だが、弁護人の暴露をきっかけに、市議の受け答えはしどろもどろになった。

 ちなみに、その後の12月15日、広島市議会は河井被告から現金を受け取った一部議員に対する辞職勧告決議案を否決した。「汚い金」でグアム旅行を楽しんだ市議の例だけでなく、12月21日の公判では69歳の同僚市議が裏金50万円の一部でゴルフに興じていたという醜態が新たに明るみに出た。

 彼らは、現在も議員バッジを付けている。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。