公職選挙法違反の罪に問われている元法相、河井克行被告と妻の案里被告の裁判が東京地裁で連日行われている。その百日裁判で日を追うごとに明かされているのが、お金を受け取った被買収者100人の人間くさい使い道と笑えない言い訳だ。(全2回の2回目/前回を読む)

できれば人に知られたくない己の醜態

 いけないお金をもらった人間というものは、その事実はもちろん、受け取った瞬間のことは決して忘れない。それが「汚い金」と自覚し、早く返そうと思いながらも、自分の懐に収めてしまう。

 そして人間は弱い。普段使いの財布や銀行口座に混ぜたら最後。「お金に色はない」と自らに言い聞かせているうちに財布の紐は次第に緩み、慎ましく生きる者であってもアッという間に使い果たす――。

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 これまで40回以上も開かれた裁判で私が聞き続けた、のべ70人ほどの証言や書証から「もらった側の言い分」をまとめてみると、だいたいそういうことになる。

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 今回、被買収者100人の刑事処分は見送られた。だが、できれば人に知られたくない己の醜態が検察側ではなく、被告側の反対尋問によって白日の下に晒されることもある。

 12月3日に東京地裁818号法廷の証人席に座った広島県安芸高田市議会の元副議長(72)は、2019年3月27日に副議長室で現金10万円を克行被告から受け取った。直後に議長がやってきて、不穏な事情を察すると「それは返さんと、こがに(「このように」の意味)なるで」と広島弁で言いながら、両方の手首がお縄につながれるような仕草をして見せたという。

「手持ちがなく、やむなし」

 だが、元副議長は返さなかった。「表に出せないお金だ」と知りながら、封筒をそのままセカンドバッグにしまった。そしてあろうことか、しばらく時間がたってから、お盆休みに孫とデパートに行った際、手持ちが足りなかったために使ってしまったのだ。

「(元副議長の認識では)『汚れたお金』ですよ! それで孫にデパートでプレゼントをした。なぜできたんですか?」

 法廷でヤメ検の大物弁護士から叱られるような口調でそう追及されると、証人席の元副議長は力なく答えた。

「非常にまずいとは思いましたが、手持ちがなく……やむなしということで……。後で補填しましたが、私の責任です」

 弁護士は追い討ちをかけた。

「そもそも『汚れたお金ではない』と思っていたんじゃないんですか?」

 古希を過ぎた証人は首を横に振った。

 誰しも孫はかわいい。だが、今回の事件ではその愛情が仇になってしまったケースが他にもあった。

 克行被告を10年近く支えてきた有力支援者も「汚れたお金」を孫に使った一人だ。

 昨年6月19日に自宅の玄関先で受け取った10万円は、妻に見つからないようにベッドのマット下に隠しておいた。それから約6か月後までに3万円が使われ、残高は7万円。それを孫7人に正月のお年玉としてあげたらしい。

 孫たちの年齢までは法廷で明らかにされなかったが、1人当たり1万円というと、庶民感覚ではなかなかの大盤振る舞いである。しかも、当時は「週刊文春」を始め、各マスコミが河井夫妻の疑惑をしきりに報じていた頃だった。家族の前では祖父としての面目が立ったが、事件の発覚によって彼の社会的信用は地に堕ちた。