一方で、ワクチンには副反応(副作用)がつきものです。米国では27万人接種した時点で6人(10万人あたり約2人)にアナフィラキシー(激しいアレルギー症状)が出たと報道されています。幸いなことに現時点では大きな問題になってはいませんが、今後、ワクチン接種後に重大な健康被害を受ける人が出ないとも限りません。そこで、重大な健康被害を受ける人が接種者10万人に1人出ると仮定します。するとニューヨーク市では接種率50%で、42人に重大な健康被害が出る計算になります。
この仮定をもとに、ワクチンによって死を免れた人の数を重大な健康被害を受ける人の数で割ってみます。すると、282人が新型コロナによる死を免れる代わりに、1人が重大な健康被害に見舞われる計算になりました。ワクチンによって1人が重大な健康被害を受けたとしても、282人もの命が救われるわけですから、社会としてリスクを許容する可能性が高いと考えられます。
東京の場合はどうなる?
次に東京のシミュレーションを見てみましょう。
東京都では、これまでに約5万2000人が陽性となりました。来年も同じ数の陽性者が出ると仮定すると、人口の半数がワクチンを打つことで陽性者は約2万7000人に減ります。つまり、2万5000人近くが感染を免れる計算です。これによって、逼迫が伝えられている医療機関の負担をかなり減らせることになるでしょう。
また、死亡者は567人から298人に減るので、269人の命を救える計算となります。これを見ると、やはり日本でも非常に大きな恩恵を得ることができると言えそうです。
ただ、重篤な副反応が10万人に1人出ると仮定すると、東京都では50%の接種率で70人が重篤な副反応に見舞われることになります。死を免れた269人をこの70人で割ると約4(3.8)となります。つまり、4人の命を救う代わりに1人が重大な健康被害を受ける計算となります。もしこのシミュレーション通りになった場合、東京ではワクチンを積極的に勧奨すべきか、あるいは個々人の考えに任せるか、意見が分かれるかもしれません。
有効率95%が維持されなかったら……
しかも、これは1年間ずっと有効率95%という数字が維持されると想定したシミュレーションです。もしかすると、ワクチンの効果が徐々に低くなることもあるかもしれません。
もし有効率が1年間で結果的に75%になったとしても、ニューヨーク市では223人の命を救う代わりに1人が重大な健康被害を受けるという計算になるので、社会的に許容される可能性は高いでしょう。
しかし、有効率が75%になると、東京では3人の命を救う代わりに1人が重大な健康被害に見舞われるという計算になります。さらに有効率が50%に落ちたとすると、2人を救う代わりに1人が重大な健康被害を受けることになります。そうなると接種を続けるかどうか政治的に非常に難しい判断を迫られ、社会としても議論が分かれるかもしれません。