近年伸び悩む巨人ドラ1選手たち

「期待されるとろくなことがない。もう夏休みもなく、ずっと練習させられるから」
 
 ある強豪高校のレスリング部。コーチもスカウトしてきた生徒には期待して、当然のように厳しく指導する。結果、夜遅くまで練習させられるのが嫌で辞めてしまう選手も多い。自分は初心者で入部して逆に期待されずに助かった。ケンドー・カシンの著書『フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで』に高校時代の経験がそう書かれていた(偶然にも光星学院高校出身のカシンは巨人・坂本勇人の先輩にあたる)。この本を読みながら、以前トークショーで共演した元ドラフト1位投手が「肩が痛かったけど、首脳陣や多くのファンが注目している状況では、なかなか自分から『痛いです』とは言い出せない」と話していたのを思い出した。確かに過剰な期待は時に才能を潰してしまうこともある。

 それでも野球ファンは新人選手が入る度に、今度こそはなんつって懲りずに期待してしまうわけだ。ここ数年、巨人ドラフト1位は1軍で結果を残せていない。14年岡本和真(智弁学園高)、15年桜井俊貴(立命館大)、16年吉川尚輝(中京学院大)といった面々だ。右の大砲を期待される3年目の岡本は14試合で打率.192に0本塁打。キャンプからローテ入りを目指した2年目右腕の桜井は18試合で0勝1敗、防御率4.68。即戦力内野手を期待された吉川尚輝も新人合同自主トレ中からコンディション不良で出遅れ、いまだ1軍でヒットなしだ。現在全員2軍、厳しすぎるプロの現実。真っ昼間から人もまばらなジャイアンツ球場でプレーするそんな彼らを見ていると、勝手に感情移入をしてしまう。

14位にドラフト1位で入団した岡本和真 ©文藝春秋

長年チームを支えるベテラン陣の意地

 思い出してほしい。すべての男にとって、人生で最もしんどかったのはいつだっただろうか? 30代の同世代と飲んで「これまで最もキツかった時期は?」と聞くと、みんなほとんど「人生で一番最低な時期は就職した直後の20代前半から中盤」って言うよ。社会人になってから最初の数年は地獄だ。学生という身分のエクスキューズを失って、とことん無力だから。仕事のコツはまだ掴めないし、同期の女子たちを優しくデヘヘ顔で指導している先輩たちも俺らにはやたらと厳しい。ったく、どうなってんだ。こんなはずじゃなかったってさ。誰にだってそういう瞬間はあるはずだ。俺も社会人になりたての頃、平日は毎日終電地獄で土曜深夜にテレビで観る『やりすぎコージー』が唯一の楽しみだった悲惨な時期があった。思い出しても泣けてくる。

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 プロ野球の多くの新人選手も初めてプロの練習に参加した時に心底絶望するという。「このおっさんたちマジかよ?」と。エグい速球に圧倒的なパワーと技術。ほとんどのルーキーはアマ時代はチームの中心を担う地元のヒーローだ。それがプロ入りした瞬間に自分が一番下手状態。特に今の巨人野手陣は世代交代が進む投手陣とは対照的に、30代中盤から後半の百戦錬磨のベテランパワーで回っている。一塁阿部慎之助、三塁村田修一、二塁ケーシー・マギーといったド迫力の面々。外野も亀井善行、長野久義、陽岱鋼と全員30代トリオだ。偉大なる矢沢永吉は自著『アー・ユー・ハッピー?』の中でこう言っている。「おじさんのツッパリっていうのはマジだ。命をかけている。ダメだったからといって、知らん顔して逃げるわけにはいかない」。これを巨人ファン風に訳すと「村田やマギーのツッパリはマジだ。命をかけてポジションを死守してる」となる。守備位置を動かされ、死球をかち食らい、犠打のサインを出されても黙々と仕事を遂行し試合に出続けている男たち。いつの時代もベテランはしぶとい。プロ野球の魅力は期待の若手選手の成長だけじゃない。往生際の悪いおっさん達の生き様を見るのもまたプロ野球である。