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【ヤクルト】歴史的惨敗の年でも……寺島成輝のデビュー登板は唯一の希望の光だ

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/09/24
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伊藤智仁コーチに軽口をたたく黄金ルーキー

 あれは、2月の沖縄・浦添キャンプのことだった。ある日の練習終了後、伊藤智仁ピッチングコーチのインタビューをしていると、寺島の話題になった。伊藤は言う。

「寺島クンは、さすがにいいものを持っていますよ。《即戦力》とは言わないけれど、じっくり育てれば面白い存在になるのは確かです」

 それまで、「今の投手にもう少し野蛮さがほしい」と伊藤コーチは話していた。それは、ヤクルト投手陣は、性格的に大人しく優しい選手が多いという文脈での発言だった。しかし、寺島に関しては、この時点ですでに「ふてぶてしいヤツ」と絶賛していた。

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「寺島クンは、なかなかふてぶてしいヤツですよ。ブルペンでの面構えを見ていてもわかるでしょ? だって、新人合同自主トレのときに、すでに手を抜くことを覚えていましたからね(笑)」

 キャンプイン前の1月の新人合同自主トレを視察したときのことだった。ランニング主体の練習が続く中で、要所要所で寺島が力を抜いているのがわかったという。

「さっき、力抜いて走ってたやろ?」と尋ねると、寺島は堂々と「はい」と答えたという。

「新人で、これだけ注目されていて、なかなかできることじゃないですよ」

 伊藤は嬉しそうに笑った。さらに、こんなエピソードも教えてくれた。キャンプ時期のフォーム固めの一環として、バドミントンのラケットを使ったシャドウピッチングをさせてみようと伊藤コーチは考えた。しかし、キャンプ地にはラケットは持ってきていなかった。ちょうど、翌日は練習休養日だった。伊藤は言う。

「たまたま翌日が休みだったので、散歩を兼ねて買いに行くことにしました。それで、寺島クンに、“明日、バドミントンのラケット買ってくるよ”って言ったら、彼、僕に何て言ったと思います?」

 伊藤の口元から、白い歯がこぼれる。

「アイツ、僕に向かって、“じゃあ、ヨネックスでお願いします!”って言ったんですよ。コーチ自らラケットを買いに行くって聞いたら、“ありがとうございます”とか、“わざわざすいません”って言うじゃないですか。それなのに彼はラケットのメーカーの指定をするんですよ。並のルーキーじゃないですよ(笑)」

伊藤コーチが購入したヨネックスのラケット ©長谷川晶一

 そして翌日、伊藤は寺島の指定通りにヨネックスのラケットを買って来たのだった。それまで何度も、伊藤に話を聞いていたけれど、寺島とのこのやり取りを聞いて、「いかにも伊藤コーチが好きなタイプの選手だな」と思った。思えば伊藤自身も、ルーキーだった93年のユマキャンプで、当時の野村克也監督に「ご自慢のスライダーを見せてくれ」と頼まれたときに、平然とこんな言葉を吐いた。

「いや、今はまだスライダーを投げる時期じゃないので、今日は投げません。スライダーならば、いつでもストライクは取れますから大丈夫です」

 この言葉を聞いて、ノムさんは驚くと同時に「頼もしいヤツや」と感じたという。自分と似たようなふてぶてしさを誇る寺島に、伊藤が期待するのも当然のことなのかもしれない。

 さぁ、全国のヤクルトファンのみなさん! 辛い一年だったからこそ、最後の最後に希望の光を浴びて有終の美を飾ろうではありませんか! 来季に向けての希望の星。寺島成輝のプロデビュー戦をみんなで見届けようではありませんか! この一戦に、僕は2017年のすべてをかけているのです。辛かった一年を忘れさせてくれる、ゴールデンルーキーの黄金の左腕に、僕は夢を見たいのです。希望の光を感じたいのです。さぁ、神宮へ行こう!

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※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト http://bunshun.jp/articles/4255 でHITボタンを押してください。

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